神々の饗宴
ナルンガーラのウタキからマッサビの屋敷に戻ったササと クマラパと ガンジューはターカウ(台湾の高雄)から来た熊野の山伏で、マタルーに武芸を教えていた。フーキチは 日が暮れる前に山頂に着いた。山頂は 「この熊野権現様はいつからここにあるのですか」と安須森ヌルがマッサビに聞いた。 「二百年くらい前だと思うわ。ミャーク(宮古島)の 「この島に、熊野権現様は他にもありますか」 マッサビは首を振った。 「この山はこの島で一番高い山なので、この山に登った山伏はクン島(西表島)に行ったようです」 そう言ってマッサビは、西に見える大きな島を指差した。 「クン島のクンダギ(古見岳)は ササはクンダギにも登らなければならないと思いながらクン島を眺めていた。イシャナギ島とクン島の間に、島がいくつも見え、夕日に照らされて海は輝いていた。 「綺麗な眺めね」と言って若ヌルたちは喜んでいた。 持って来た荷物を置いて、全員で熊野権現様にお祈りを捧げた。スサノオの神様の「遅いぞ」という声が聞こえて来ると思ったのに、何も聞こえて来なかった。 「おかしいわね。どこにいらっしゃったのかしら?」とマッサビが空を見上げた。 ササはユンヌ姫を呼んでみたが、やはり返事はなかった。 「お料理を広げて、お酒を飲み始めれば、きっといらっしゃるわ」とササは言った。 マッサビはうなづいてお祈りを終えると、ツカサたちに 熊野権現様の前に 「何かあったのかしら?」と心配そうな顔をしてマッサビが空を見上げた。 「あっ!」とササが叫んだ。 「どうしたのよ」とシンシンが聞いた。 「笛を吹くのを忘れていたわ」 安須森ヌルも気づいて、「肝心な事を忘れていたわね」と笑って笛を取り出した。 「ヤキー(マラリア)で亡くなった人たちを慰めましょう」 安須森ヌルが吹き始めて、それにササが合わせて吹いた。 神々しい 高熱と闘って、苦しみながら亡くなっていった大勢の人たちの痛みを和らげる、心に染み渡る優しい曲だった。二人が吹く鎮魂の曲はすでに神様の領域に入っていて、人間 マッサビを始め、ツカサたちは皆、感動して涙を流していた。何度も聞いているシンシン、ナナ、タマミガも涙を抑える事はできなかった。 「素晴らしいわ」と言ったのはウムトゥ姫だった。 ササと安須森ヌルは心の中でウムトゥ姫にお礼を言って吹き続けた。 曲が終わって笛を口から離しても、スサノオの声は聞こえなかった。 突然、まぶしい光に包まれたと思ったら、ウムトゥ姫とノーラ姫、ノーラ姫の六人の子供たちが現れた。長女の二代目ウムトゥ姫、次女の二代目ノーラ姫、三女のヤラブ姫、長男のテルヒコ、四女のクバントゥ姫、五女のメートゥリ姫だった。 思っていた通り、ウムトゥ姫は威厳があって、美しい神様だった。長い髪に青々とした葉で作った鉢巻きをして、古代の着物を着て、大きなガーラダマ(勾玉)を首から下げ、ヒレと呼ばれる長い布を肩から垂らしていた。 ノーラ姫は優しそうな顔をした神様で、娘たちも皆、美人揃いだった。テルヒコは髭だらけの顔をしていて、武将という貫禄があった。 ササがウムトゥ姫にスサノオの神様が現れない事を言うと、 「 ササは気軽にウムトゥ姫と話をしていたが、神様の姿を目の当たりにしたマッサビを始めとしたツカサたちは、恐れ多くて頭を上げる事ができずにひれ伏していた。若ヌルたちは眠りに就いていた。前回、眠っていたタマミガは神様の姿を見て感激し、ツカサたちを見倣ってひれ伏していた。 「皆さん、顔を上げてください。スサノオ様は堅苦しい事は嫌いみたいなので、普段通りにしてください」とウムトゥ姫が言って笑った。 その親しみやすい笑顔にマッサビがお礼を言って、ツカサたちも恐る恐る顔を上げた。 ウムトゥ姫が始めましょうと言って、皆で乾杯して宴は始まった。不思議な事に神様たちが現れたら冷たい風もやんだ。すでに日も沈んで星空が広がっていたが、ここだけは明るかった。 「異国の神様というのはどんな神様なのですか」と安須森ヌルがウムトゥ姫に聞いた。 「わたしがこの島に来た時、メートゥリオン(宮鳥御嶽)には石を積み上げて作ったお寺があって、異国の神様が祀られていたわ。メートゥリオンの神様はミナクシという女神様と、その夫のスンダレという神様で、南の国が滅ぼされてしまって、王様の一族が神様と一緒に、この島に逃げて来たみたい。始めは 「赤崎の神様はサラスワティ様という水と豊穣の女神様なのよ」とノーラ姫が言った。 「何年か前に 「音曲の神様ですか」と安須森ヌルは興味深そうな顔をしてササを見た。 「そんな異国の神様も、この島にいらっしゃるのですか」とササは聞いた。 「いつもはいないわ。時々、遠い国からいらっしゃるみたい」 「この島に来た時、言葉が通じなかったって言っていましたけど、困ったのではありませんか」と安須森ヌルが聞いた。 「勿論、大変だったわよ」とノーラ姫は目を細めて、遠い昔を思い出していた。 「この島に来て、このお山に登ってから、母と一緒に島中を旅したのよ。危険な目にも遭ったけど、何とか乗り越えて来たわ。一番大変だったのは言葉の問題だったわね。とにかく、島の人とお話ができなければどうしようもなかったわ。旅をしてわかったんだけど、メートゥリオンの村が一番栄えていたの。今は 「サミガー大主はわたしたちの祖父です」とササが言った。 ササも安須森ヌルも驚いていた。イシャナギ島で鮫皮を作っているなんて、まったく知らなかったし、イシャナギ島の人が馬天浜に来ていたなんて初耳だった。 「そうだったの」とノーラ姫は笑って話を続けた。 「わたしたちはメートゥリオンの村で言葉を覚えるために、しばらく暮らしたのよ。最初はよそ者だって嫌われていたけど、わたしたちはくじけなかったわ。やがて、言葉もわかるようになって、村の人たちとも仲よくなれて、わたしは夫と出会ったのよ。夫は女首長の息子で、スンダレという神様と同じ名前を名乗っていて、強くて優しい人だったわ。御先祖様のマタネマシズ様は一年以上もお船に揺られて、ようやくこの島に着いたって言っていたわ。遙か遠い国からやって来たのよ」 「旦那様と出会ったノーラ姫様は、旦那様と一緒に名蔵に行って暮らすんですね?」と安須森ヌルが聞くと、 「名蔵で暮らすのはもっとあとの事よ」とノーラ姫は笑った。 「わたしたちは母と一緒に東海岸の 「玉取崎?」 「わたしたちが行った頃は、そんな名前はなかったんだけど、母が採った貝の中から綺麗な 「真珠を採るためにそこに行ったのですか」 「何を言っているの。真珠なんて採ろうと思っても採れるものじゃないわ。材木を伐りに行ったのよ。あの辺りの山に舟の材料になる太い木がいっぱいあったの」 「たった三人で丸太を伐りに行ったのですか。当時は鉄の斧なんてなかったのでしょう」 「そうね。今、考えたら無謀だわね。石の斧で太い木を倒していたのよ。でも、あの時は必死だったわ。やらなければならないって、わたしも母も思っていたの。最初は三人でやっていたんだけど、だんだんと人が集まって来たわ。集まって来た人たちを見て、言葉ではうまく言えないけど、母は凄い人だと思ったわ。母が大きな真珠を見つけた事は島中の噂になって、母は生き神様ではないかと人々が母を慕って集まって来たのよ」 「その真珠は今でもあるのですか」 「マッサビがガーラダマと一緒に首から下げているわよ。あとで見せてもらうといいわ。玉取崎に移った翌年の夏、伐った木をみんなで池間島に運んだの。お礼としてガーラダマや、この島では手に入らない堅くて黒い石、織物などを手に入れて帰って来たのよ。皆、喜んでいたわ。丸太を池間島に持って行けば貴重な物が手に入るって噂になって、さらに人々が集まってきて、丸太の交易はうまく行ったのよ。わたしたちは玉取崎に十年くらいいたわ。長女のミナからテルヒコまでの四人の子は玉取崎で生まれたの。それから母はナルンガーラに行ってお屋敷を建てて、わたしたちは名蔵に落ち着いたのよ」 安須森ヌルはノーラ姫から話の続きを聞いていたが、ササはヤラブ姫のもとに行って、アマミキヨ様の事を聞いた。シンシンとナナも付いて来て、玻名グスクヌルとタマミガはノーラ姫の話を聞いていた。 ウムトゥ姫は難しい顔をして、マッサビとヤキーの事を話していた。サユイは二代目のウムトゥ姫と話をしていた。ツカサたちは御先祖様の神様の所に行って、色々と聞いていた。 ヤラブ姫の所にはヤラブダギのツカサ、 「アマミキヨ様の事ね」とヤラブ姫はササを見て笑った。 「祖母(ウムトゥ姫)に連れられて、わたしがヤラブダギ(屋良部岳)に登ったのは十二歳の時だったわ。幼いわたしにとっては凄い山だった。山頂に大岩があって、その上で、『お前がこのお山を守るのよ』って祖母に言われたの。上の姉は祖母の跡を継いでウムトゥダギを守り、下の姉は母の跡を継いで名蔵を守り、わたしはこのお山を守るんだわって思って、嬉しくなったの。山頂でお祈りをして、お山を下りて 当時を思い出したのか、ヤラブ姫は黙ってしまった。ヤラブ姫の気持ちなどお構いなしに、 「南の国の言葉で『アーカサ』って、どういう意味なんですか」とササは聞いた。 「えっ?」と我に返ったヤラブ姫はササを見て、 「『天』とか『神』とかいう意味だったと思うけど」と言った。 「アーカサが赤崎になったのですか」 「そうだと思うわ。あそこは少し飛び出ているから崎が付いて赤崎になったんじゃないかしら」 「十二歳の時からアーカサで暮らしていたのですか」 「そうじゃないわ。あのあと祖母のもとで修行を積んでから六年後よ。わたしは弟を連れてヤラブダギに登って、アーカサに行ったの。女首長が歓迎してくれて、わたしたちはアーカサに住んで言葉を覚えたのよ」 「神様の言葉もわかるのですか」 「御先祖様の神様の言葉はある程度わかるんだけど、サラスワティ様の言葉はよくわからないのよ。サラスワティ様は何年かに一度、御神崎に現れて、ヤラブダギの山頂にいらっしゃるの。わたしも何度かお会いしたんだけど、言葉はわからなかったわ。サラスワティ様の言葉は古い言葉で格式のある言葉らしいわ。当時の女首長もよくわからないって言っていたわ。でも、何となく、サラスワティ様のおっしゃりたい事は感じ取る事はできたのよ。サラスワティ様は山頂で、不思議な楽器を 「アーカサに住んでいた人たちは、ミャークの赤崎に住んでいた人たちの一族なのですか」 「わたしはミャークの赤崎に行った事があるのよ。ウタキの神様とお話ししたんだけど、半分はわからなかったわ。言葉は似ているんだけど、うまく通じないのよ。神様が姿を現してくれたら、身振り手振りで通じたかもしれないけど、残念だったわ」 「アーカサに住んでいた人たちは、アマンの国から来た人たちではなかったのですね?」 「アーカサの人たちとメートゥリオンの人たちの言葉はまるで違うわ。アーカサとミャークの赤崎は似ている言葉なのよ。もしかしたら、同じ国の人たちなんだけど、離れた所に住んでいて、言葉が変化してしまったのかもしれないわね」 突然、眩しく光ったと思ったら、ようやく、スサノオの神様が現れた。ユンヌ姫、アキシノ、赤名姫も一緒にいたが、見知らぬ神様も一緒にいた。 「 「待ちきれなくて、始めてしまいましたよ」とウムトゥ姫が言うと、 「かまわん、かまわん」とスサノオは機嫌よく笑った。 「戦でもしていたのですか」とササが聞くと、 「前の格好は評判がよくなかったんで着替えたんじゃよ。この方がわしらしいようじゃな」 スサノオは笑って、注がれた酒をうまそうに飲むと、見知らぬ神様を見て、「誰だか知らんが、羨ましそうな顔をして、ここを覗いていたんで連れて来た」と言った。 見知らぬ二人の神様は何かをしゃべったが、異国の言葉だった。 「ミナクシ様とスンダレ様ですね」とノーラ姫が驚いた顔をして神様を見た。 二人はうなづいて、ノーラ姫に話し掛けた。 ノーラ姫が神様の言葉を訳して皆に聞かせた。 生まれ故郷は滅ぼされてしまい、今は別の国で暮らしているけど、美しい笛の音に誘われてやって来たという。 メートゥリ姫が二人のそばに行って酒を注いでやり、何やら話し掛けていた。 「やはり、知り合いの神様じゃったか」とスサノオはうなづいて、ウムトゥ姫を見ると、 「ありがとう」とお礼を言った。 「わしはまったく知らなかったんじゃ。アマン姫の孫のビンダキ姫の娘が南の島にいると聞いた。妹のクミ姫と会って、姉のウムトゥ姫も南の島に行って楽しくやっているんじゃろうと思っていた。ササとマシュー(安須森ヌル)に呼ばれて、ミャークに行って驚いた。そなたの孫たちがあちこちにいて、その子孫たちも大勢いた。そして、この島にもそなたの孫たちがあちこちにいて、子孫たちも多い。八重山の島を巡ってみたが、どの島にも子孫がいた。わしは涙が出るほど嬉しかったぞ。そなたのような ノーラ姫の娘たちが拍手をして、次々に酒を注ぎに来た。スサノオの事はノーラ姫の娘たちに任せて、ササたちは一人で酒を飲んでいるテルヒコの所に行った。 「場違いな所に来てしまったようです」とテルヒコは笑った。 「テルヒコ様には子孫はいらっしゃらないのですか」とササは聞いた。 「わしにもおるよ」とテルヒコは笑った。 「 「えっ、兄貴って、実の兄にですか」と驚いた顔をしてナナが聞いた。 「ああ、そうなんだ。わしは若い頃、妹のクバントゥ姫と一緒にクバントゥの村に行ったんじゃ。よそ者扱いされて居心地は悪かったが、ある兄弟と仲よくなったんじゃ。その兄弟は幼い頃に両親を海で亡くして、神様なんか信じないと言って、村の人たちがウタキに集まっても、ウタキに行く事はなかったんじゃ。わしらはその兄弟から言葉を学んで、兄弟たちと一緒に暮らしたんじゃよ。三人兄弟で、兄はハツ、弟はサラ、妹はミズシといって、わしはミズシと仲よくなったんじゃよ。素直で可愛い娘じゃった。クバントゥ村に住んで三年目の夏の終わり頃、祖母が亡くなったんじゃ。わしは妹と一緒にナルンガーラに行って、祖母を弔い、その後、妹はクバントゥに帰ったが、わしは名蔵に残った。祖母が亡くなって、母も忙しくなって、名蔵の留守番を頼まれたんじゃよ。わしが留守番をしながら、ミズシの事を思っていたら、三兄妹が名蔵にやって来たんじゃ。三兄妹は名蔵が気に入って住み着く事になって、わしはミズシを妻に迎えたんじゃよ。あの時は幸せじゃった。ハツは相変わらず、神様なんて信じていなかったが、ミズシはウムトゥダギの神様になった祖母を信じていて、毎朝、ウムトゥダギに向かってお祈りをしていたんじゃ。祖母は凄い人じゃった。池間島との丸太の取り引きを始めて、この島を豊かにした。ツカサたちが代々大切にしているガーラダマはその時に手に入れた物なんじゃよ。クバントゥの女首長も、メートゥリオンの女首長も、アーカサの女首長も祖母の事は尊敬していた。祖母が亡くなった時は、各地の首長が皆、ウムトゥダギに集まって来たんじゃ。そして、皆が祖母をこの島の最高の神様として祀る事になったんじゃよ。ミズシを真似して、サラも祖母にお祈りをするようになって、それを見たハツが怒ったんじゃ。サラは気の弱い男で、兄には逆らえなかった。ハツは祖母の事も否定して、神様なんていないと言ったんじゃ。クバントゥの神様を信じないのは勝手じゃが、祖母の事を否定したハツは許せなかった。わしはハツと喧嘩をして、しばらく口も利かなかったんじゃ。何日かして、ハツが不思議な夢を見たから一緒に来てくれと言ってきた。一緒に山の中に入って行くと、見た事もないような大きな 「どうして、妹を殺したのですか」とササが聞いた。 テルヒコは首を振った。 「ハツは正気ではなかった。虚ろな目をしていて、『こうなったのはミズシのせいだ』と言ったが、どうして、ミズシが殺されなくてはならないのか、わしにはわからなかった。ハツはもがき苦しみながら、殺してくれとわしに言った。妻の 「えっ、石になっていた?」 「そうじゃ。白い石の塊になっていたんじゃ。わしはミズシを弔って、二人で暮らした新居をウタキにした。それがミズシオン(水瀬御嶽)じゃ。石になったハツは、朽ち果てた小屋の中に放ってあったが、ミズシがわしの夢に出て来て、『兄も充分に反省していますので、神様として祀ってください』と言ったんじゃ。わしは母と相談して、ハツを祀る事にした。それがシィサスオン(白石御嶽)じゃ。そこには今でも石になったハツがいる」 「そんなウタキがあったなんて知らなかったわ」 「マッサビも急いでいたので案内しなかったのじゃろう。ノーラオン(名蔵御嶽)の近くにミズシオンはある。シィサスオンは少し離れた所にある。ハツも神様になったら、村のために働いてくれている。元々、いい奴だったんじゃ。ただ、両親を一遍に亡くしてしまい、弟と妹を育てるのに苦労したんじゃろう。神様なんか信じたくないって意地を張っていたんじゃよ」 「生き残ったサラはどうなったのですか」とシンシンが聞いた。 「サラはウムトゥダギの神様を信じると言ってクバントゥに帰って行った。兄から解放されて、やっと自分の生き方を見つけたようじゃ。クバントゥに帰ってから二年後、クバントゥ姫と結ばれたんじゃ」 「そうだったのですか」とササたちはクバントゥ姫を見て、「よかったですね」と言った。 「サラはクバントゥ姫と結ばれてよかったが、わしは悲惨じゃった。突然、妻を失った悲しみから、なかなか立ち直れなかったんじゃ。あの頃のわしは、まるで抜け殻のようじゃった」 「立ち直れたのですか」 「立ち直ったのは五年後じゃ。わしはバンナー山に登ったんじゃ。あの山も古くから雨乞いの山じゃった。母が孫娘をあの山に送ろうと言ったので、わしは様子を見に行ったんじゃよ。バンナー山の南側に 「チャコさんは素敵な人だったのですね?」とナナが聞いたら、テルヒコは照れ臭そうに笑って、 「そなたたちのような 話を聞いていたツカサたちがはやし立てた。 「もう一度、笛を聞かせてくれんか」とスサノオがササと安須森ヌルに言った。 二人はうなづいて笛を吹き始めた。華やかな饗宴にふさわしい華麗な曲が流れた。 途中から琴のような調べが加わった。誰が弾いているのかわからないが素晴らしい演奏だった。ササと安須森ヌルはその演奏に負けないように必死になって笛を吹いた。 「サラスワティ様が弾いているのに違いないわ」とウムトゥ姫が言った。 「サラスワティ様というのは誰じゃ?」とスサノオがウムトゥ姫に聞いた。 「南の国からいらっしゃった赤崎の神様です」 「ほう。見事じゃのう」 ササと安須森ヌルの笛とサラスワティのヴィーナという弦楽器の合奏がウムトゥダギの山々に響き渡って、山内に棲む様々な生き物たちが耳を澄まして聞き入っていた。 |
ウムトゥダギ(於茂登岳)
メートゥリオン(宮鳥御嶽)
クバントゥオン(小波本御嶽)
アーカサ(赤崎)
玉取崎
石城山