沖縄の酔雲庵

尚巴志伝

井野酔雲







それぞれの新年




 ファイテ(懐徳)とジルーク(浦添按司の三男)は島添大里(しましいうふざとぅ)に帰って来た。年が明けたら旅に出て、旅から帰って来たら首里(すい)に移り、とりあえずは『報恩寺(ほうおんじ)』の師匠として修行者たちを指導するという事に決まった。

 ジルークは女子(いなぐ)サムレーの『ミカ』と再会して、二人の婚約が決まった。島添大里でも帰国祝いの(うたげ)が開かれ、『ソウゲン(でぃら)』で一緒に学んでいた仲間が集まって、ファイテとジルークを祝福した。年末の島添大里の城下は二人の話題で持ちきりだった。

 年が明けて、永楽(えいらく)十四年(一四一六年)になった。綺麗な日の出が見られて、今年はいい年になりそうだった。

 『新年の儀式』も無事に済んだ三日の夕方、首里グスクの『龍天閣(りゅうてぃんかく)』で身内だけのお祝いの宴が開かれた。集まったのは前回、『ジクー寺』で顔を合わせた十一人だった。ウニタキ(三星大親)も年末には『今帰仁(なきじん)』から帰って来ていた。

「忙しかった正月の三日間もようやく終わった。みんな、御苦労だった」と思紹(ししょう)(中山王)が挨拶をした。

「去年は『冊封使(さっぷーし)』が来て慌ただしい一年だった。安須森(あしむい)ヌル(先代佐敷ヌル)はササ(運玉森ヌル)と一緒に南の島(ふぇーぬしま)を探しに行って、見事に『ミャーク(宮古島)』を探して、さらに、『トンド(マニラ)』まで行って来た。そして、南の島の人たちとトンドの王女様を連れて帰って来た。南の島の人たちもトンドの王女様も来年も来ると約束してくれた。琉球(沖縄本島)はますます発展していく事になろう。『首里』に移って、今年は十年目の節目となる。今年がよい年になる事を祈ろう」

 集まった者たちは思紹にうなづいて、「よいお年を」と言って祝杯を挙げた。

「さて、前回、集まった時から二か月余りが過ぎて、当時とは情勢が変わった。『鬼界島(ききゃじま)(喜界島)』を攻めていた湧川大主(わくがーうふぬし)(攀安知の弟)が鬼界島攻めに『失敗』して帰って来た。鬼界島がこんなにも手強(てごわ)いとは驚きじゃが、わしらに取っては、いい方向に向かっているように思う。ウニタキから湧川大主が帰って来てからの状況を聞こう」

 ウニタキがうなづいて報告した。

「湧川大主が運天泊(うんてぃんどぅまい)に帰って来たのは十二月十日でした。山北王(さんほくおう)(攀安知)に怒られて、その後、敗戦処理に専念します。戦死した山北王の兵と直属の兵の家族たちの家を回って頭を下げ、羽地(はにじ)名護(なぐ)国頭(くんじゃん)の按司たちにも頭を下げています。奄美大島(あまみうふしま)に残された国頭の兵たちも根謝銘大主(いんじゃみうふぬし)と一緒に薩摩(さつま)の船に乗って帰って来ました。戦死した兵の家族は山北王を恨んでいますが、騒ぎが起こるという程ではありません。皆、仕方がないと諦めているようです」

「そうか。それで、湧川大主は今年も『鬼界島』に行くのか」

「行くようです。ただ、(いくさ)をしに行くのではなく、話し合いに行くと言っているようです」

「『鬼界島』が話し合いに応じると思っているのか」

「運天泊にいる『ハビー』の話によると『秘策』があるようですが、それがどんな『秘策』なのかは教えてくれないと言っていました」

「秘策か‥‥‥湧川大主は『武装船』に乗って行くのだな?」

「多分、そうだと思います」

「湧川大主が出掛けたあと、『今帰仁』を攻めるか」と思紹が言ったので、

「『武装船』に乗った湧川大主を生かしておくと、あとが面倒です。奄美大島にいて、ヤマトゥ(日本)に行く『交易船』を狙うでしょう」とサハチ(中山王世子、島添大里按司)は言った。

「そいつはうまくないな。湧川大主が出掛ける前に攻めた方がいいな。しかし、山北王を攻める『大義名分(たいぎめいぶん)』がない」

「今、今帰仁のヤマトゥンチュ(日本人)の町にある遊女屋(じゅりぬやー)から『山北王の噂』を流しています。今頃はヤマトゥンチュたちの間に広まっている事でしょう」とウニタキが言った。

「どんな噂じゃ?」と思紹が聞いた。

「鬼界島で戦をしていた時、山北王が沖の郡島(うーちぬくーいじま)(古宇利島)の豪華な御殿(うどぅん)で、『クーイの若ヌル』と贅沢三昧(ぜいたくざんまい)の宴を開いていたという噂です」

「そんな噂が広まったとして状況が変わるかのう」と思紹は首を傾げた。

「戦死した兵たちの家族は怒ります。それを(あお)って、名護、羽地、国頭、三人の按司たちを山北王から切り離すのです」

 サハチが『真喜屋之子(まぎゃーぬしぃ)』の事を説明して、『真喜屋之子』に三人の按司たちのつなぎ役になってもらうと言った。

「山北王と湧川大主の弟を殺して逃げた男がいたとは驚いた。しかも、『仲尾大主(なこーうふぬし)』の倅だったとはのう。そいつは使えそうなのか」

「大丈夫です」とウニタキが言った。

「湧川大主は今でも『真喜屋之子』を探せと言っています。湧川大主がいる限り、奴は隠れて暮らさなければなりません。そして、奴は若い頃、『名護按司』、羽地按司の弟の『饒平名大主(ゆぴなうふぬし)』、国頭の水軍大将の喜如嘉大主(きざはうふぬし)の倅の『喜如嘉之子(きざはぬしぃ)』と一緒に明国に行っています。つなぎ役に最適です」

「しかし、山北王が側室といちゃいちゃしていたくらいで、山北王を裏切るような事までするかのう。逆に『真喜屋之子』が捕まって湧川大主に殺されるかもしれんぞ」

「その辺は奴も慎重にやるはずです。奴は今、旅芸人の護衛役のヤマトゥのサムレーに扮して名護にいます」

 サハチとウニタキは皆の顔を見回したが、誰もがうまくいくとは考えてはいないようだった。

「もっとひどい悪口じゃないと、噂は広まらないんじゃないのか」とヒューガ(日向大親)が言った。

「ヤマトゥンチュにとって、山北王が側室と贅沢をしたからって、どうでもいい事じゃからな。羨ましいとは思うだろうが、それだけじゃ。わざわざ、仲間に知らせるような事じゃない」

 そう言われてみればそうかもしれなかった。戦死した兵の家族たちは怒って、同じ立場の仲間に知らせるだろうが、そうでない者たちは羨ましいと思うだけで、それを人に伝えようとは思わないかもしれなかった。

「今年の『鬼界島攻め』は去年の倍の兵力で攻めるという噂なら広まるかもしれんぞ」と苗代大親(なーしるうふや)が言った。

「それを聞いたら按司たちも怒りそうじゃな」と思紹は笑ったが、「嘘の噂を流しても、すぐにばれてしまう」と首を振った。

 安須森ヌルは女子サムレーの『シジマ』の事を話した。シジマが『志慶真(しじま)ヌル』になれば、志慶真村は味方となって、難なく『志慶真曲輪(しじまくるわ)』が手に入ると言った。

「ササと一緒にヤマトゥに行っている『アキシノ様』が帰って来たら相談して、シジマが『志慶真ヌル』になれるようにします」

「ヌルの事はお前たちに任せる。うまくやってくれ。(から)め手(裏門)の『志慶真曲輪』が難なく手に入れば、それに超した事はない」

「『志慶真村』の事を調べて来ました」とウニタキが言った。

「『志慶真の長老』が亡くなってしまって、古い事を知っている人はいなくなってしまいましたが、長老の末っ子が長老が残した書物を整理したようです。その末っ子はずっと『奥間(うくま)』にいて、長老が亡くなったあとに戻って来ました。『シルー』という名の『具足師(ぐすくし)(鎧師)』です」

「なに、具足師じゃと? もしかして、『クタルー殿』の弟子なのか」と思紹が聞いた。

「『クタルー殿』を知っているのですか」

「知っている。わしが若い頃、ヤマトゥに行った時、『クタルー殿』はヤマトゥでの修行を終えて、一緒に帰って来たんじゃよ」

「そうだったのですか」

「まだ、健在なのか」

「いえ、七年前に亡くなったそうです」

「そうか、亡くなったのか‥‥‥それで、その『シルー』という具足師に会ったのか」

「俺は会ってはいませんが、『まるずや』の者が会っています。(よろい)を作るには『組紐(くみひも)』や『革紐』が必要です。長老が亡くなって、三年前に志慶真村に帰って来たシルーは、『まるずや』に『組紐』や『革紐』を頼んだのです。『まるずや』の者が『シルー』から色々な事を聞いていました。『志慶真村』は二代目今帰仁按司の息子が『搦め手』を守るために造ったのですが、その頃は『御門(うじょう)』があっただけで、『志慶真曲輪』はありません。『志慶真曲輪』は志慶真村ができてから五十年余り経った頃、英祖(えいそ)の次男の『湧川按司(わくが-あじ)』が今帰仁按司になって、志慶真村の人たち全員が避難できるようにと造ったようです。その頃の今帰仁グスクは按司の屋敷がある『一の曲輪』と家族たちの住む『二の曲輪』があっただけですが、すでに『石垣』はあったようです。『志慶真曲輪』を造るのと同時に、城下の人たちが避難できるように『三の曲輪』も造っています。湧川按司が亡くなったあと、娘婿の『本部大主(むとぅぶうふぬし)』が幼い『千代松(ちゅーまち)』を追い出して、今帰仁按司になりますが、女好きな按司だったらしく、側室を何人も迎えて、側室たちの屋敷を『志慶真曲輪』に建てたそうです。成長した『千代松』は志慶真村を味方に付けて、『志慶真曲輪』から『一の曲輪』を攻めて、『本部大主』を倒して今帰仁按司になります。この『千代松』が『外曲輪(ふかくるわ)』ができる前の『高い石垣』で囲まれた難攻不落な『今帰仁グスク』を造りました」

「『千代松』の伝説はわしも聞いた事があるが、『千代松』が今帰仁グスクを造ったとは知らなかった。『千代松』の次が『帕尼芝(はにじ)』なんじゃな?」

「正確に言うと『千代松』が亡くなったあと、千代松の息子が跡を継いでいます。『マチルギの祖父』です。しかし、跡を継いですぐに『帕尼芝』に滅ぼされました。内通した者がいたようです」

「内通者か‥‥‥今帰仁グスク内に側室はいるが、側室たちに『御門』を開けさせるのは無理じゃな」

「『テーラー(瀬底大主)』を内通させれば?」とサスカサ(島添大里ヌル)が言った。

「『テーラー』は南部のテーラーグスクにいるだろう」とサハチは言った。

「いや、それはわからんぞ。山北王が『テーラー』を呼ぶかもしれない」とウニタキが言った。

「山北王と湧川大主は今、喧嘩別れをしている。まあ、『テーラー』も怒られた口だが、何か用があれば、湧川大主ではなく、『テーラー』を呼ぶかもしれない」

「もし、『テーラー』が今帰仁グスクに入ったとして、寝返るかのう」と苗代大親が言った。

「『テーラー』と山北王は本部(むとぅぶ)で育った幼馴染みですから、寝返るのは難しいかもしれませんが、ンマムイ(兼グスク按司)から聞いた話だと、『テーラー』は山北王の側室の『ウク』に惚れているようです。『ウク』を助けると言ったら寝返るかもしれません」

「『ウク』というのは奥間の側室だな」とサハチが言った。

「そうだ。今年、十七になった『ママキ』という娘がいる。お嫁に行く時期だが、今の所、その話はない。『ママキ』は今、お芝居に夢中になっているようです」

「奥間の側室なら助けなければなるまい」と思紹が言った。

「『テーラー』の家族はどこにいるんじゃ?」とヒューガがウニタキに聞いた。

「『本部』にいます。最初の妻は出産に失敗して亡くなってしまい、毎年、明国に行っていた頃は妻なんていらないと言って、独り者を通していたのですが、山北王が進貢(しんくん)をやめてから後妻をもらっています。後妻との間に二人の子供がいます」

「本部にいるなら心配ないじゃろう」

「その家族を人質にして寝返らせたらどうでしょう」とファイチ(懐機)が言った。

 皆が驚いた顔をしてファイチを見た。

「戦に勝つには敵の弱点を見つける事です。『テーラー』の弱点が家族なら、家族の命と引き換えに寝返るはずです」

「もし、仮に『テーラー』が寝返ったとして、『テーラー』に御門を開けさせるのか」と苗代大親が聞いた。

「それでもいいし、山北王をグスクの外に出してもらってもいい」と思紹が言った。

「しかし、寝返らせるにはグスクに潜入して『テーラー』と会わなければならん。それが一番、難しいじゃろう」

「『山グスク』の連中に頑張ってもらうしかないな」とサハチは言った。

「『山グスク』の連中に頑張ってもらうには、『志慶真曲輪』は是非とも奪い取らなければならんな」と思紹が言ってウニタキを見ると、「まだ話の続きがあるんじゃろう」と聞いた。

 ウニタキはうなづいて話し始めた。

「今の『志慶真大主(しじまうふぬし)』は長老の孫で、妻は国頭按司の妹です。母親は山北王の伯母ですが、すでに亡くなっています。志慶真大主の弟は今帰仁のサムレー副大将でしたが、今は『奄美按司(あまみあじ)』になっています。『志慶真ヌル』は志慶真大主の姉で、妹は『諸喜田大主(しくーじゃうふぬし)』の妻になっています。志慶真大主の次男の『ジルー』は湧川大主の娘を妻に迎えて、湧川大主の配下になっています。運天泊に住んでいて、『鬼界島攻め』にも行っています。サムレー大将は二人いて、志慶真大主の叔父の『前原之子(めーばるぬしぃ)』と従弟(いとこ)の『上原之子(ういばるぬしぃ)』です。前原之子は長老の三男で、上原之子は長老の次男の息子です。二人とも妻は按司とは関係のない娘です。『志慶真大主』の妻は山北王の許可が必要なようですが、次男、三男の妻はその必要もなく、好きになった娘を妻に迎えているようです」

「シジマが『志慶真ヌル』になれば、うまく行きそうね」と安須森ヌルが言った。

「志慶真大主の姉の『志慶真ヌル』がいるのに、『アキシノ様』の子孫だからって、『シジマ』は志慶真ヌルになれるのかしら?」と馬天ヌルが言った。

「志慶真ヌルは『ウトゥタル様』の声は聞こえないの?」

 馬天ヌルは首を振った。

「『ウトゥタル様』の声が聞こえれば、『ウトゥタル様』の言う事を聞くと思うんだけど、聞こえないんじゃ仕方ないわね」

「『ウトゥタル様』はシジマに『志慶真村』に近づいちゃだめって言ったようだけど、どういう事ですか」とサスカサが安須森ヌルに聞いた。

「シジマは『志慶真村生まれ』でしょう。帰れば歓迎してくれるはずだわ。それなのに、どうして帰っちゃいけないのかしら?」と安須森ヌルは首を傾げた。

「『ウトゥタル様』に聞かなければわからないわね」と馬天ヌルが言ったので、

「『親泊(うやどぅまい)(今泊)』まで行くつもりなのですか」とサハチが心配して聞いた。

「ササが帰って来たら、ササが『シジマ』と一緒に行くでしょう。それに、もしかしたら、『アキシノ様』がその理由を知っているかもしれないわ」

 サハチにそう言ったあと、馬天ヌルは思紹を見て、

「さっきから気になっていたんだけど、『奥間の具足師』はどうやって『組紐』を手に入れていたの?」と聞いた。

察度(さとぅ)殿(先々代中山王)が送っていたんじゃよ」と思紹が言った。

安謝大親(あじゃうふや)からその事を聞かれて、わしも察度殿に倣って『奥間』に送るように頼んだんじゃ」

「成程、そういう事だったの」と馬天ヌルは納得した。

 ずっと黙ったままのマチルギを見て、

「具合でも悪いのか」とサハチは聞いた。

「今帰仁攻めの事を『マハニさん(ンマムイの妻で攀安知の妹)』や『マナビー(チューマチの妻で攀安知の娘)』に、何て言ったらいいのか考えていたのよ」

「何を言っても悲しむだろうが、納得する説明をしたいな」とサハチは言った。

「そうよ。ちゃんと納得できる説明をしたいわ」

「納得できる説明か‥‥‥」と思紹はマチルギを見てから、皆の顔を見回した。

「納得のできる説明をするには、山北王が『首里』に攻めて来るのを待つしかありません」とファイチが言った。

「『首里』で戦をしたら城下は焼かれてしまう。せっかく造った『お寺(うてぃら)』を焼くわけにはいかん」とサハチは言った。

「山北王の兵が『首里』まで来るのは不可能です。陸路で来れば、途中にあるいくつものグスクを落とさなければなりません。落とさなければ、後ろから攻めて来ます。海路で来れば、ヒューガ殿の水軍にやられます。もし、浮島(那覇)まで来たとしても、待ち構えていた兵にやられるでしょう」

「という事は山北王は『首里』を攻めて来る事はないのじゃな?」と思紹がファイチに聞いた。

「今の状況ではです。『山北王の若按司(ミン)』が山南王(さんなんおう)になれば、状況は一変します。山南王と東方(あがりかた)の戦が始まって、中山王(ちゅうざんおう)は動けなくなります。山北王は陸路で、グスクを一つづつ攻め落として、『首里』に迫って来るでしょう」

「やはり、今年、やるしかないな。『マナビー』たちには恨まれるが仕方がない」と思紹は言った。

 思紹は奥間大親(うくまうふや)(キンタ)を見ると、

「今日も黙っているな。何か言う事はないのか」と聞いた。

 キンタは皆を見回してから、「年末年始に『奥間』に行って、『奥間ヌル様』から聞いた話ですけど」と言って話し始めた。

「皆さんも御存じの通り、『奥間』では昔から按司が代替わりすると『側室』を贈っています。『奥間』を守るためです。今帰仁按司に贈った側室の事を聞いてみました。先々代の『帕尼芝(はにじ)』ですが、『奥間』から二人の側室を迎えていました。父親が亡くなって羽地按司を継いだ時と、今帰仁按司になった時です。最初の側室は二人の子供を産んで、一人は『国頭按司の妻』になって、もう一人は前与論按司(ゆんぬあじ)の『屋我大主(やがうふぬし)』です。二人目の側室も二人の子供を産んでいて、一人は『名護按司の妻』になりました。今の名護按司の母親です。もう一人は奄美大島で戦死した『本部大主』です。国頭按司と名護按司が『奥間』と関係がある事がわかりました」

「成程な」と思紹はうなづいて、「『羽地』はどうじゃ?」と聞いた。

「奥間ヌル様も忙しい時だったので、『羽地』の事は聞けませんでした。改めて、『奥間』に行こうと思っています」

 思紹はウニタキを見て、「知らんか」と聞いた。

「母親の事まで調べるのは難しいです。『羽地按司』は帕尼芝が今帰仁按司になった時に、弟が継いでいます。その時、奥間から側室が贈られたはずなので、子供はいるとは思いますが、母親が側室なのかを調べるのは難しいです。羽地の『まるずや』の者に聞いてみます」

「頼むぞ。羽地按司も『奥間』とつながりがあれば、寝返り易くなるからな」

「ちょっと聞きたいんだが」とサハチがキンタに言った。

「按司たちに『側室』を贈っていたのは『奥間ヌル』なのか」

「そうです。『奥間ヌル様』が娘を選んで、按司に贈るのです。ヒューガ殿の娘の『ユリさん』を浦添(うらしい)の若按司(カニムイ)に贈ったのも、王様(うしゅがなしめー)の娘の『ミサさん』を山北王に贈ったのも今の『奥間ヌル様』です」

 『奥間ヌル』がそんな事までしていたなんてサハチは知らなかった。しかし、よく考えてみれば、そんな重要な仕事をするのはヌルしか考えられなかった。

「『ミサ』はまだ、わしの事は知らんのじゃな?」と思紹がキンタに聞いた。

「まだ、知りません。いつ知らせたらいいのか、時期を見ているようです」

「今回はここまでという事で、祝い酒を始めるか。まもなく、ヤマトゥに行った『交易船』も帰って来るだろう。そしたら、ササの土産話を聞くために、また集まろう」



 その頃、島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクでも、『トゥイ(先代山南王妃)』のいない正月を何とか無事に乗り切る事ができてよかったと、山南王の他魯毎(たるむい)と王妃のマチルー、島尻大里ヌル(前豊見グスクヌル)と座波(ざーわ)ヌルが祝杯を挙げていた。



 それから三日後、山北王の攀安知(はんあんち)は『沖の郡島(うーちぬくーいじま)(古宇利島)』に来ていた。『クーイの若ヌル』と一緒に御殿(うどぅん)の庭から海を眺めながら、忙しかった年末年始もようやく終わったとホッとしていた。

 湧川大主とテーラーは新年の挨拶に来たが、攀安知は受けなかった。二人がいないと攀安知の仕事が増えて忙しくなるので、許したいと思うのだが、山北王として、家臣たちの手前、そう簡単に許すわけにはいかなかった。軍師として、なくてはならない存在の『リュウイン(劉瑛)』を失った事と『鬼界島攻めに失敗』して多くの兵を戦死させた罪は重かった。幼馴染みと弟といえども、許すにはまだ時期が早すぎた。湧川大主とテーラーは祝宴に参加する事なく帰って行った。

 島の西側の小高い丘の上に立てられた御殿は、東側から見ると高い石垣に囲まれているが、海側の石垣はそれほど高くなくて海が見渡せた。豪華な御殿には若ヌルの侍女として十人の女たちが働き、二十人の兵によって守られていた。

北風(にしかじ)に乗ってヤマトゥのお船が随分と通って行きましたよ」と若ヌルのマナビダルが言った。

「今帰仁はヤマトゥンチュたちでいっぱいだよ。去年は商品が足らなくてまいったが、今年はたんまりとある。奴らも喜ぶだろう」

「今年も『進貢船(しんくんしん)』を出すのですか」

「新しい『進貢船』はもらったんだが、新しい『海賊』も来たしな。どうしようか迷っているんだ。一昨年(おととし)の事もあるから、『海賊』が来てから決めようと思っている」

永楽帝(えいらくてい)はまだ『海賊退治』をしているのですか」

「しているようだ。南の方(ふぇーぬかた)にある島に逃げたから大丈夫だと言っていたが、わからんからな。『海賊』が来なかったら『進貢船』を出すしかあるまい」

 風もないいい天気で、漁をしているウミンチュ(漁師)の小舟(さぶに)が数艘、海に浮いていた。

「『鬼界島』はどうするのですか」とマナビダルが聞いた。

「ジルータ(湧川大主)が話を付けに行くと言っているが、ジルータは恨まれている。『鬼界島』に行ったら殺されるだろう。今まで『鬼界島攻め』に参加していない『テーラー』を行かせようと思っている。奴ならうまくやってくれるような気がするんだ」

「話を付けるって、どう話を付けるんですか」

「あの島の領主の『御所殿(ぐすどぅん)』を『鬼界按司』に任命して、島の事は任せる事にする。そして、交易のために今帰仁まで来てもらう」

 マナビダルは楽しそうに笑って、自分の首を斬る仕草をした。

 攀安知も笑ってうなづき、「備瀬大主(びしうふぬし)(かたき)だからな」と言った。

「『御所殿』は危険を察して来ないんじゃないの?」

「その時はその時で、また考えるさ。『鬼界島攻め』より、今年は『中山王』を攻めるつもりなんだ」

「えっ?」とマナビダルは驚いた。

「中山王を攻めるのにジルータの『武装船』が必要なんだよ」

「海から攻めるのですか」

「ああ、『鉄炮』を撃ちまくってな」と言って攀安知は笑った。

「来年の今頃は首里グスクにいるだろう。お前も呼ぶからな」

「首里の都も賑やからしいわね。『佐敷ヌル(マチ)』から聞いたわ」

「お前が『佐敷ヌル』と仲良くなるなんて思ってもいなかったよ」

「ヤンバル(琉球北部)のヌルたちはあたしを白い目で見るのよ。焼き餅を焼いているのかしら? 南部のヌルたちはそんな事はないわ。『安須森ヌル様』は本当に凄いヌルだったわ。『馬天ヌル様』も貫禄があって、凄いヌルね。『馬天ヌル様』と『勢理客(じっちゃく)ヌル様』はとても仲がよかったわ」

「『馬天ヌル』は何度もヤンバルに来ているからな」

「『安須森ヌル様』と『奥間ヌル様』も仲がよかったわよ」

「安須森ヌルと奥間ヌル?」

 馬天ヌルが『奥間』に行ったのは知っているが、安須森ヌルが『奥間』に行ったのは知らなかった。『安須森参詣』で仲良くなったのだろうか。

「この島のウミンチュから聞いたんだけど、国頭按司の『材木』を運んでいるのは『奥間』のウミンチュとヤマンチュ(杣人)だって言っていたわ」

 その事は攀安知も知っていた。『材木屋』が国頭按司の『材木』から手を引いてからは、自分で運ばなくてはならなくなって、『奥間』の者たちに頼んだようだった。

「ヤンバルにいるのに、『奥間』の人たちって山北王の支配下に入っていないの?」

「『奥間』は今帰仁よりも古いんだよ。初代の今帰仁按司が『奥間』には干渉しないって決めたようだ。その代わりに按司が代わる度に、『奥間美人(うくまちゅらー)の側室』を贈ってくるんだよ」

「初代の今帰仁按司って二百年以上も前の人でしょう。未だに、その約束を守っているなんておかしいわ。中山王に仕えていた『奥間大親』は、『玻名(はな)グスク』をもらって『按司』になったんでしょ。みんな、南部に行けばいいんだわ」

「『奥間』は鍛冶屋(かんじゃー)の本拠地なんだ。今帰仁にいる鍛冶屋も『奥間』とつながっている。みんなが南部に行ったら困る事になる」

「奥間の長老を『奥間按司』に任命して、鍛冶屋ごと山北王の支配下に組み入れればいいんじゃないの」

 攀安知は驚いた顔をしてマナビダルを見た。そんな手があるなんて考えてもみなかった。

「奥間按司か‥‥‥」

 いい考えだと思ったが、今は『奥間』の事より『中山王攻め』の作戦を練る事の方が先決だった。

「『中山王』を倒したら『奥間按司』の事は考えよう。それより、祝い酒を飲もう」

 マナビダルは嬉しそうに笑って、うなづいた。





首里グスク



島尻大里グスク



沖の郡島(古宇利島)の若ヌル御殿




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