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三の曲輪の激戦
『外曲輪』を奪い取った翌日の朝、サハチ(中山王世子、尚巴志)はサグルー(山グスク大親)たちが『志慶真曲輪』を攻め落としたとの知らせを受け、順調に行っていると満足そうにうなづいた。 しかし、サハチにとって『サム(勝連按司)の戦死』は大きな衝撃だった。昨夜はサムの枕元に座ったまま一睡もしていなかった。伊波按司(チューマチ)、山田按司(トゥク)、安慶名按司(マイチ)の兄たちは、必ず、サムの敵を討つと誓っていた。 サハチは『志慶真曲輪』を奪い取った事を兵たちに知らせて士気を上げた。中山王(思紹)の孫たちの活躍に、按司たちも大したものだと喜んだ。 朝食を済ませると『総攻撃』が始まった。外曲輪の中程に『楯』が並べられ、外曲輪攻めの時と同じように二段構えの陣だった。戦死者が多く出て半数以下になってしまった勝連の兵は伊波按司の指揮下に入り、越来の兵は浦添按司の指揮下に入った。 『鉄炮(大砲)』の音が響き渡って、鉄炮の玉が外曲輪を越えて飛んで行った。三の曲輪から『石』が飛んで来た。三の曲輪にも『投石機』があるようだ。敵から奪った『投石機』で、こちらからも三の曲輪に『石』を撃ち込んだ。 『丸太車』が中御門に突入したが、また『大石』が落ちてきて潰れた。屋根は補強してあるが、何人かがやられて『丸太車』は動かなくなった。 『楯』を持った兵に隠れて、『梯子』を持った兵が三の曲輪の石垣の下に向かった。『三の曲輪の石垣』は三丈(約九メートル)近くもあるので、外曲輪攻めで使った『梯子』を二つつないでいた。弓矢と石つぶての攻撃が激しく、なかなか石垣の下まで行けなかった。何とか石垣の下まで行っても、上から『石』を落とされて、兵たちは倒れ込んだ。 『物見櫓』の上から戦況を見ていたサハチとファイチ(懐機)は、『三の曲輪』を攻め落とす難しさを改めて実感していた。 「まともな攻撃をしていたら負傷兵が増えるばかりです」とファイチが言った。 「そうだな」とサハチはうなづいて、「ウニタキ(三星大親)が『抜け穴』の出口を見つけてくれればいいが」と言って、飛んで行く鉄炮の玉を追った。 一の曲輪の『御殿』に当たったようだが、『御殿』はまだ壊れてはいないし、火の手が上がる事もなかった。 「夜襲でも仕掛けるか」とサハチは言った。 「火矢を撃って敵を眠らせないようにしましょう」とファイチが言って、サハチの顔を見た。 「サハチさん、眠っていないのでしょう。先はまだ長そうです。休んだ方がいいですよ」 サハチはうなづいて、兵の指揮をファイチに任せて物見櫓から下りた。 外曲輪から外に出たら、ヒューガ(日向大親)の配下の『ウーマ』が来て、『鉄炮の玉』が終わったと知らせた。 「なに、もう二百発を撃ったのか」 「七つの鉄炮で撃っていますから、一つの鉄炮につき三十発足らずしかありません」 「そうか。終わったか。二百発も撃てば、かなりの被害が出ているだろう。御苦労だった」 ウーマと別れたサハチは焼け跡の中にある『本陣の仮小屋』に向かった。仮小屋の中で、安須森ヌル(先代佐敷ヌル)が横になっていた。安須森ヌルは昨夜、叔父の越来按司の所にいた。 サハチに気づいて安須森ヌルは上体を起こした。 「お前も疲れただろう。眠った方がいい」 「一眠りしようとここに来たんだけど、戦場じゃ眠れないわ」 「『鉄炮の音』に起こされたか」とサハチは笑った。 「もう鉄炮の玉は終わったよ」 「勝連按司が亡くなってしまって、お姉さんが悲しむわね」 「サムはマチルギと一番仲がいい兄弟だったからな。昨夜、サムの顔を見ながら、色々と思い出していたよ。マチルギが嫁ぐ前、サムとマチルギと一緒に、ここに来た事があるんだ。サムもマチルギも『祖父の敵討ち』を誓っていたけど、今帰仁グスクを見た事はなかった。それで、ヒューガ殿に頼んで、一緒に来たんだよ。サムはグスクの石垣を見上げて、目を丸くして『すげえなあ』と言っていた。まさか、サムがここで戦死してしまうなんて、夢にも思わなかった」 「勝連は未だに呪われているのかもしれないわ」 安須森ヌルはそう言うが、サムの戦死は『呪い』とは関係ないだろうとサハチは思った。越来按司も戦死しているし、越来按司の次男の美里之子も戦死した。勝連の兵が三十四人戦死して、越来の兵は四十七人も戦死している。勝連よりも越来の方が被害が大きかった。 眠気がさしてきてサハチは横になった。 話し声で目を覚ましたサハチが声のする方を見ると、タマ(東松田若ヌル)とシンシン(杏杏)とナナが来ていて、安須森ヌルと話をしていた。 目を覚ましたサハチに気づいたタマが、 「按司様、ササ姉(運玉森ヌル)に相談してきます」と言った。 「なに、島添大里に帰るのか」とサハチは驚いて起き上がった。 安須森ヌルの説明を聞いたあと、サハチはタマが見た場面を詳しく聞いた。 「山北王(攀安知)がウタキ(御嶽)にある『霊石』を刀で斬ったのか」 「そうなんです。あたしは山北王に会った事はありませんが、そのウタキは『御内原』の中にあるそうです。『御内原』に入れる男は山北王だけだと思います。それに大将らしい鎧を着ていたし、振り上げた刀も立派でした」 「ほかに何か見なかったか」 「雨が降っているようでした」 「雨か‥‥‥」とサハチはうなづいた。 山北王がウタキにある『霊石』を斬ったという事は、山北王は負けを認めたという事だな‥‥‥今回の戦は勝てるとサハチは確信を持った。 「神様の事はお前たちに任せるが、お腹に子がいるササをここに連れて来るのは危険だぞ」とサハチは言った。 「わかっています。ササ姉なら『アキシノ様』を助ける方法を知っているはずです」 タマはシンシンとナナを連れて、馬を走らせて島添大里に向かった。 「タマは重要な役目を担っているって、ササが言っていたけど、『アキシノ様』を助ける事だったのね」と安須森ヌルがサハチに言った。 「タマは『シネリキヨ』なのに、『アキシノ様』の声が聞こえるのよ。不思議に思ってアキシノ様に聞いたら、アキシノ様の息子さんが旅をした時、タマの御先祖様の娘と出会って、結ばれたって言っていたわ」 「なに、タマも『アキシノ様』の子孫だったのか」 「お姉さんや志慶真ヌルと違って、母親が代々、『アキシノ様』の子孫じゃないけど、タマにも『アキシノ様』の血が流れていたのよ」 「タマの『マレビト神』が俺なのも何か理由があるのか」 「タマは『シネリキヨ』の子孫を守りなさいって神様から言われたらしいわ。タマとお兄さんが結ばれて、生まれた娘が『シネリキヨ』のヌルとして、『シネリキヨ』の子孫たちを守るような気がするわ」 サハチにはよくわからなかった。 安須森ヌルは志慶真村に帰って、サハチは外曲輪内の本陣に向かった。 戦は中断していた。『芝居小屋の本陣』に行くと、サグルーが来ていて、ファイチと話をしていた。 「親父、サム伯父さんが戦死したなんて‥‥‥」 「会って来たか」 「ええ、ジルムイ(サムの娘婿)が泣いていましたよ」 「そうか‥‥‥サムの敵を討ったら思い切り泣けと伝えてくれ」 「サグルーから志慶真曲輪攻めで使った『松明のおとり作戦』を聞きました」とファイチがサハチに言った。 「マウシ(山田之子)が考えて、うまく敵の目を欺いたようです。今晩、それを使いましょう」 サハチとファイチは作戦を考えて、そのための準備を兵たちに命じた。 その夜、篝火が炊かれた外曲輪では、『松明』を持った兵が交代で石垣を目指していた。幸いに月が雲に隠れていたので、竹の棒に付けた『松明』は敵に気づかれる事なく、敵は『松明』を目掛けて弓矢を射続けた。『松明のおとり作戦』は夜が明けるまで続いて、敵を眠らせなかった。 『松明のおとり作戦』は二の曲輪の石垣の下でも、シラーとタクの兵によって行なわれ、御内原の石垣の下でも、サタルーとマウシの兵によって行なわれていた。 三日目の夜が明けた。 サハチが『物見櫓』に登って朝日を眺めているとウニタキがやって来た。 「サムが戦死するとはな」とウニタキは言った。 「『勝連按司』を継ぐ者がいなくなってしまった。いよいよ、お前の出番だ」とサハチは言った。 「いや、まだ早い。お前と『南蛮(東南アジア)の旅』に出なくてはならんからな」 「『勝連按司』はどうするんだ?」 「サムの娘婿がいるだろう」 「ジルムイか」 「お前の倅だ。勝連の者たちも喜んで迎え入れるだろう」 「ジルムイはサグルーが中山王になった時、苗代大親のようなサムレーたちの『総大将』になるのが夢だった」 「義父が戦死したんだ。考えを変えるだろう。ユミのためにも『勝連按司』になった方がいい」 サハチは朝日を見ているウニタキの横顔を見ながら、『勝連按司』は朝鮮との交易船を出さなくてはならないが、ジルムイに任せてみるかと考えていた。 「『抜け穴』は見つかりそうか」とサハチは聞いた。 「ずっと探し回っているんだが見つからん。もしかしたら、出口は志慶真川ではないのかもしれん」 ウニタキは右側の山を見て、「『クボーヌムイ(クボー御嶽)』の中にあるのかもしれんな」と言った。 「『クボーヌムイ』なら安須森ヌルに頼めばいい。ヌルたちが探してくれるだろう」 ウニタキはうなづくと物見櫓から下りて行った。 負傷者が多く出るので、その日の攻撃は石垣を目指して突撃はしなかった。『投石機』での石の撃ち合いと、石垣の上の敵を弓矢で狙うために、時々、『楯』を持った兵がおとりとして進み出るだけにした。 正午頃、突然、『中御門』が開いて敵が攻めて来た。二騎の騎馬武者に率いられた兵たちは、並べられた『楯』を突破して、伊波按司と山田按司の兵の間に攻め込んで、喚声を上げながら、そのまま、開かれたままの『外曲輪の大御門』を抜けて城下へと飛び出した。後陣にいた浦添按司があとを追おうとしたら、馬から下りた二人の武将は武器を捨てて跪いた。兵たちも武器を捨てて跪いた。苗代大親が味方の兵たちを止めた。 本陣から出て来たサハチとファイチは跪いている敵兵を見た。 「志慶真村のサムレー大将の『前原之子』と『上原之子』でございます。『志慶真曲輪』が陥落したので、投降いたします」 投降した兵は七十六人いた。浦添按司に見張りを頼んで、サハチは前原之子と上原之子を本陣に呼んで話を聞いた。 『外曲輪』を守っていた二人は、一昨日の戦で二十人余りの戦死者を出して、その後、『三の曲輪』を守っていた。戦が膠着状態になったので、戦死した者たちの敵を討ちたいと言って、三の曲輪の総大将の『具志堅大主』の許しを得て、外曲輪に攻めて来た。『志慶真曲輪』が落ちてしまったので、これ以上戦う意味はないので投降したと言った。 「志慶真大主様と志慶真ヌル様は御無事でしょうか」と前原之子が聞いた。 サハチが無事だと言うと二人は安心したようにうなづき合った。 ファイチが『三の曲輪』の様子を聞いた。 三の曲輪内には岩場が多く、『鉄炮の玉』が当たって岩が砕け、その破片に当たって怪我をした兵がかなりいる。戦死者も多く、守っている兵は二百人前後だと言った。 「三の曲輪にある屋敷は『鉄炮』でやられたのか」とサハチは聞いた。 「その屋敷は『本陣』になっていたのですが、『鉄炮』にやられて屋根は穴だらけです。負傷兵を収容していましたが、『鉄炮の玉』が負傷兵の上に落ちてきて、悲惨な状況となって、今はもう使用していません」と前原之子は言った。 「ほかの曲輪の屋敷はどうだ?」 「三の曲輪から出ていないので、二の曲輪と一の曲輪の様子はわかりませんが、屋敷はかなり破壊されていると思います。中御門から二の曲輪に行く途中に『客殿』があるのですが、そこで負傷兵の治療をしています。その『客殿』もかなり破壊されていました」 「山北王は『三の曲輪』にいるのですか」とファイチが聞いた。 「外曲輪が奪われる前は三の曲輪にある物見櫓の上から指揮を執っていましたが、今は『御内原』にいるようです。毎朝、三の曲輪にある『的場』で弓矢の稽古はしています」 「戦の最中なのに、毎朝、かかさずに稽古をしているのか」とサハチが聞いた。 「はい。今朝もしていました」 前原之子と上原之子を下がらせたあと、サハチは『投降兵』の処置をファイチと苗代大親と相談した。志慶真曲輪から送られてきた十四人の投降兵は見張らせているが、八十人もの兵を見張るには百人の兵を割かなくてはならなかった。 ファイチは奥間大親に渡して、負傷兵の治療を手伝ってもらえばいいと言った。苗代大親は負傷兵の補充に使えばいいと言った。投降したと言っても本心はわからなかった。投降した振りをして、『陣地の撹乱』をたくらんでいるのかもしれなかった。 どうしようか考えている時、陣地が騒がしくなった。本陣の小屋から外に出てみると、敵の『騎馬武者』が中御門から次々に出て来た。十騎の『騎馬武者』が横に並んで兵たちを睨み、武器を振り上げると一斉に攻めて来た。皆、かなりの使い手で馬に近づく兵は次々に倒されていった。 「総大将は動くな」と言って苗代大親が敵の一人に立ち向かって行った。 強敵と見たのか、敵は馬から下りて苗代大親と戦った。 「総大将は動かないで下さい」とファイチが言って敵に向かって行った。 兵たちがやられるのを見てはいられないと、サハチも行こうとしたら国頭按司に止められた。 「総大将が動いたら負け戦になります」 苗代大親が見事に敵を倒した。ファイチも倒していた。 「引け!」と誰かが叫んで、敵は撤収していった。 敵が中御門に逃げ込んだあと、開いている門の中に『安慶名按司』が突っ込もうとしたが、 「罠だ、行くな!」と苗代大親が叫んで、安慶名按司は突撃をやめた。 中御門は閉じられた。 与那原大親とンマムイ(兼グスク按司)も敵を倒していた。 十人の敵を相手に、十三人が戦死して、三十人余りの負傷者が出ていた。 サハチは投降した志慶真の兵たちに負傷兵の看護を命じた。前原之子に聞いた所、あの十人は『リュウイン(劉瑛)』の弟子たちで、武術道場の師範だという。『リュウイン』が明国(中国)に行ったあと、弟子たちを山北王から切り離しておくべきだったとサハチは後悔した。 陣を立て直して、石垣の上の敵兵を倒すために、焼け跡の中に立てた三つの『物見櫓』を外曲輪内に移動していた時、ウニタキが本陣にやって来た。その顔付きを見て、サハチは『抜け穴』の出口を見つけた事がわかった。 「使えそうか」とサハチは聞いた。 ウニタキは笑って、「その前に苦労話を聞け」と言った。 ファイチは『物見櫓』の位置を決めるために、兵たちを指図しているのでいなかった。サハチはウニタキから話を聞いた。 「石垣の下にある急斜面の密林の中をくまなく探したんだが見つからなかった。もしかしたら、川の下をくぐって向こう側にあるのかと思って、反対側も探させたが見つからなかった。一体、どこにあるんだと対岸を歩きながら川の流れを見ていたら、川の中に『ガマ(洞窟)』らしいものが見えたんだ。この前の大雨で川が増水していた時は隠れていたようだ。入り口の半分近くが川の中にあって、そこを抜けると中は広い『ガマ』になっていた。『ガマ』の中に細い川が流れていて、大雨のあとはガマの中に貯まった水が志慶真川に流れ込むようだ。松明を持って進んで行くと、上からかすかな光がこぼれている所に出た。そこに登れるように石段もできていたので、そこに間違いないと思った」 「上に出たのか」 「いや、石段を登って上まで行ったら兵たちの声が聞こえた。今、出たら敵に見つかると思ったのでやめたよ。出口は『石の板』で塞がれてあったようだが、『鉄炮の玉』が当たって割れたようだ。太い木の根がいくつもあるので、木の根を切って、割れた『石の板』をどけないと外には出られない。その時の音が敵に気づかれる恐れがある」 「『鉄炮』を撃とう」とサハチは言った。 ウニタキはうなづいた。 「『鉄炮』の音を合図に、入り口を開けて飛び出せばいい」 「だが、味方の兵が『抜け穴』から出た事がわからないと『鉄炮』を止められないぞ。『物見櫓』から三の曲輪の中まで見えない」 「そうだな。何かうまい方法はないか」 二人が考えているとファイチが戻って来た。 サハチは『抜け穴』の事をファイチに話した。 「『抜け穴』の出口がどこにあるのかわかりませんが、三の曲輪の前に立てた『物見櫓』から三の曲輪内の半分が見えます。三の曲輪の半分より向こうに『三つ巴の旗』を立てればわかると思います」 「よし、それで行こう」 サハチは側近の兵に運天泊に行って、ヒューガの武装船から『鉄炮の玉』を五十発運ぶように命じて、ウニタキと一緒に『抜け穴』の確認に行った。 その夜、『苗代之子(マガーチ)』と『安慶名按司』が兵を率いて城下の外れの志慶真川の近くまで移動して野営をした。夜が明けると共に志慶真川に下りて、ウニタキの案内で『抜け穴』へと入って行った。 夜明けから半時(一時間)ほど過ぎた頃、『鉄炮』の音が響き渡った。『鉄炮の玉』は運天泊から昨日のうちに運び込まれていた。 サハチとファイチは三の曲輪の正面に立てられた『物見櫓』に登って、三の曲輪内を見ていた。敵の弓矢が『物見櫓』を目掛けて飛んで来たが、『楯』に囲まれている櫓の上は安全だった。『石』も飛んで来たが、『物見櫓』には当たらなかった。『鉄炮の玉』が続けざまに三の曲輪に落ちて、敵兵たちが逃げ回っていた。 『鉄炮』の音が聞こえると『抜け穴』の中にいたウニタキは、兵たちに命じて邪魔な木の根を切らせて、出口を塞いでいる『石の板』を割って下に落とした。 出口が開くと『安慶名按司』が穴から顔を出して周りを見た。『鉄炮の玉』が近くに落ちて来て土煙を上げた。兵の姿は見当たらなかった。『抜け穴』の出口は三の曲輪の中程にあって、すぐ上にはガジュマルの大きな木があった。 安慶名按司は『抜け穴』から出ると身を伏せた。石垣の近くに敵兵が集まっているのが見えた。安慶名按司が合図をすると、旗を持った兵が出て来た。旗を持った兵は『鉄炮の玉』が落ちてくる中を走って後方まで行き、『三つ巴の旗』を振った。 『鉄炮』の攻撃が止まった。『抜け穴』から次々と兵が出て来て、石垣の陰に隠れている敵兵に向かって行った。 『鉄炮』がやんでホッとしていた所に、突然、敵兵が現れたので、三の曲輪の兵たちは混乱した。石垣を守っていた兵たちも、目の前に現れた敵を倒すために石垣から離れた。 外曲輪では『総攻撃』が開始されて、『梯子』を持った兵たちが三の曲輪の石垣に取り付いて、次々に登って行った。石垣を乗り越えた兵たちは敵兵に突撃して、三の曲輪内は乱戦となった。 先陣にいた伊波按司、山田按司、浦添按司、ンマムイの兵が三の曲輪に突入した。敵の三倍の兵力なので、あっという間に『三の曲輪』を占領した。 サハチとファイチと苗代大親が『梯子』を登って三の曲輪に入ると敵兵の死骸があちこちに転がっていた。倒れている味方の兵もかなりいた。味方の兵たちは疲れ切った顔で思い思いの所で休んでいた。三の曲輪の奥の急斜面の上に『二の曲輪』の高い石垣があった。石垣の上に敵兵の姿が見えたが、三の曲輪を奪われて気落ちしたのか、攻撃はしてこなかった。 ウニタキがサハチに近づいて来た。 「お前も戦ったのか」とサハチが聞くと、ウニタキは笑って首を振った。 「俺は穴の中に隠れていたよ。『三つ巴の鎧』を着ていないからな。乱戦になったら敵と間違えられて味方に斬られてしまう」 サハチたちはウニタキの案内で『抜け穴』の入り口に行った。大きなガジュマルの根元に穴が開いていた。 「山北王はこの穴が見つからなかったのか」とサハチが聞いた。 「穴の上に石の板があって、その上にガジュマルの根が張っていたんだ。『鉄炮の玉』が石の板を割ってくれたので、開ける事ができた。石が割れなければ、開けられなかっただろう」 「そうか。『鉄炮の玉』のお陰か」 急斜面の下にある『屋敷』は鉄炮にやられて、ぼろぼろになっていた。上からの攻撃に気をつけながら屋敷の中を覗くと、何人もの戦死した兵が寝かされていた。『鉄炮の玉』に当たって無残な姿になっている者もいた。 サハチたちは西側にある三の曲輪の『御門』に向かった。途中で浦添按司と出会った。浦添按司は血だらけの若按司を抱いていた。 「クサンルーじゃないか。大丈夫か」とサハチが聞くと浦添按司は首を振った。 『クサンルー』はサハチたちと一緒にヤマトゥ(日本)に行っていた。ウニタキもファイチもクサンルーの死を悲しんだ。 越来の兵たちに囲まれて、若按司の『サンルー』がいた。サンルーも戦死していた。外曲輪の戦で、越来按司と次男の美里之子が戦死して、今、若按司までが戦死した。越来按司は跡継ぎを失ってしまった。越来ヌルの『ハマ』の悲しむ顔がサハチの脳裏に浮かんだ。 |
今帰仁グスク