トンビ
六月三日、夜が明けると同時に安土城から、きらびやかに着飾った女たちが大勢、武装した兵に守られながら、日野城へと向かって行った。 同じ頃、琵琶湖に停泊していた船から、武装した男たちが次々に上陸し、ほとんど無人と化した城下を荒らし始めていた。 城から女たちが逃げて行くのに気づき、追い討ちをかけたが、日野から迎えに来ていた蒲生忠三郎の兵の鉄砲に撃たれて引き下がって行った。 湖賊らは女たちを諦め、城へと向かった。大手門を打ち破り、城内へ潜入し、重臣たちの屋敷へとなだれ込んだ。すでに、それらの屋敷も数人の者が守っているだけだった。必死に抵抗したが、湖賊たちの襲撃に敗れ、屋敷は荒らされた。 我落多屋の二階から、マリアとジュリアは遠眼鏡で城を見ていた。 ハ見寺の参道を湖賊たちが登り下りしているのが見える。時々、鉄砲の音が鳴り響き、寺の財宝を抱えた男たちが得意顔して階段を下りていた。 番頭の久六が薄汚れた腹巻き(鎧)を持って二階に来た。 「ひでえもんじゃ。湖賊どもはやりてえ放題をやっておる。まもなく、ここにも来るじゃろう。お前らも、こいつを付けて 「戦うのネ?」とマリアは刀を抜く構えを見せた。 「馬鹿言え。戦って勝てる相手じゃねえわ」 「じゃア、逃げるの?」 「違う。奴らに化けて、ここを占拠した振りをするんじゃ。奴らが来たら、部屋の中をメチャメチャにして目ぼしい物を捜してる振りをしろ」 「成程、それは名案ネ」とジュリアは手を打った。 「いくら、仲間の振りをしても、奴らは女に飢えている。その綺麗な顔は汚しておいた方がいいぞ。着物もな。ついでに部屋の中も汚しておけ」 マリアとジュリアは庭に飛び出し、井戸水を撒いた土の上をキャーキャー言いながら転がり回り、泥だらけになって、土足のまま二階に上がった。腹巻きを身に付けると面白がって部屋の中を荒らし回った。 一階でも山から下りて来た修行者たちが武装して、部屋の中を荒らし回っていた。 ガラクタが積んであった店の中は足場もない程、メチャクチャになった。 「城の方は誰もいなくなったのか?」と腹巻き姿の藤兵衛が店に顔を出して久六に聞いた。 革の鉢巻きを着け、長い太刀を佩き、いつもの藤兵衛とは違って勇ましく見えた。人のよさそうな目付きまでもが鋭くなっていた。 「いえ。町奉行の木村次郎左衛門が守ってます。湖賊たちも 「ナニ、まだまだ、若え者には負けんわ。それで、天主は大丈夫なんじゃな?」 「はい、長谷川屋敷も。ただ、次郎左衛門の兵よりも湖賊たちの方が多いですからね。今の所は城内にある重臣たちの屋敷の略奪に忙しいので、黒鉄門を攻める事はないでしょうが、略奪が終われば、天主、本丸、二の丸を狙うでしょう」 「うむ。その前に明智の兵が来るかもしれん。奴らが来たら黄金は奪われる。今晩、決行した方がよさそうじゃな」 「分かりました」 藤兵衛はよしと言うにうなづくと屋敷の裏にある茶室に向かった。 茶室にはおさやがいて、部屋の中を荒らしていた。 「メチャメチャにするのも楽しいわ」とおさやは笑った。 「これも破いていいのネ?」と床の間の掛け軸を引き裂いた。 「アッ!」と藤兵衛は驚いて、おさやから破けた掛け軸を奪うと、「これは大旦那様の‥‥‥」とつぶやいた。 「エッ、これはまだ取り替えてなかったの?」おさやは急に蒼ざめた。 「嘘じゃよ」と藤兵衛はおさやを抱き締めた。「二束三文のガラクタじゃ」 「騙したわネ」おさやは笑いながら、藤兵衛の肩をたたいた。 藤兵衛の家族が実家に避難してから、おさやの願いがかない、藤兵衛はおさやのトリコになっていた。先程、久六に褒められた厳しい顔付きも、おさやの前ではデレッとだらしがなかった。 しばらくして、湖賊が我落多屋にやって来た。 「おーい、何かあったか?」と声を掛けて来たので、久六がガラクタを引っ繰り返しながら、「何もねえわ」と答えた。 「あるわけねえ。店の名が我落多屋じゃ。ガラクタしかあるめえ」と笑いながら小野屋の方に向かった。 戸は打ち壊され、十人近くの者が小野屋に入って行った。 その後、何度か我落多屋に来た者があったが、店の奥の屋敷まで荒らされ、蔵も開けっ放しになっているのを見ると、首を振って、違う場所へと向かった。皆、明智の軍勢が来る前に、盗めるだけ、値打ち物を盗もうと 藤兵衛を初めとして店の者たち、十八人の修行者、マリアとジュリアは荒れ果てた我落多屋に潜み、城下の情報を集めながら暗くなるのを待っていた。 日が暮れると城下も静かになり、湖賊たちは好き勝手な屋敷に腰を落ち着け、酒を飲み始めた。向かいの小野屋にも五、六人の者たちが騒いでいるのが、我落多屋の二階から見えた。 「まだダメです。もう少し待った方がいい」と長谷川屋敷まで偵察に行った久六が戻って来て言った。 「参道には人っ子一人いねえが、ハ見寺の境内では大勢の者たちが騒いでます。どこから連れて来たのか、女たちも何人かいたわ。酒を飲んで騒いでるから真夜中には静かになるでしょう」 「長谷川屋敷の方はどうじゃ?」と鉄砲を持った藤兵衛が聞いた。 「まだ、襲われてはいないようです。静まり返っていて、人がいる気配はありません。ただ、あそこから琵琶湖を見下ろして驚いたんですけど、湖賊たちの船が城を囲むように並んでます。あれじゃア、孫一の船が来たとしても、黄金を運ぶのは難しいですね。船の上から丸見えになりますよ」 「うーむ。明智の大軍が来たら、奴らも引き上げて行くと思うがのう」 「それも難しいですよ。奴らが明智とつながってる可能性があります。信長を恨んでいた者たちは皆、明智と結ぶでしょうから」 「そうか、確かにその可能性はあるのう。状況に応じて作戦を変更しなくてはならんな」 それから二時(約四時間)後、藤兵衛に率いられた修行者たちは長谷川屋敷に向かった。勿論、マリアとジュリアも従っている。 一行は静まったハ見寺の裏を通り抜け、黒鉄門の脇から山中に入り、長谷川屋敷の石垣を登った。久六が屋敷内を調べたが誰もいなかった。 裏庭の茶室から抜け穴に入り、ジュリアの持っていた鍵で扉を開け、天主の地下蔵から次から次へと黄金の詰まった箱を長谷川屋敷の下まで運んだ。百箱余りの黄金をすべて運ぶのに二時近くも掛かり、もうすぐ、夜明けが近かった。 とりあえず、運べるだけ運び出そうという事になり、十八人の修行者と店の者たちに一箱づつ持たせて運ばせた。マリアとジュリアも運ぶと言い張ったが、二人には重すぎた。モタモタしていたら、湖賊に襲われるので諦めさせた。 途中、寝ぼけた顔の湖賊に声を掛けられた。 「今日も忙しくなるぞ。今のうちに獲物を船に運ぶんじゃ」と久六は言ってごまかした。 「おう、そうじゃな。わしらも運ぶか」と目をこすりながらハ見寺の方に消えた。 我落多屋に運んだ黄金二十三箱はガラクタの下に隠した。 「二十三箱というと何枚じゃ?」と藤兵衛が聞いた。 「六千九百枚よ」とおさやが答えた。 「ネエ、黄金六千九百枚っていくらなの?」とジュリアが聞いた。 「六万九千両。およそ、十万貫文てとこネ」 「十万貫‥‥‥スッゴーイ」 ジュリアとマリアは顔を見合わせて、目を丸くした。 「オスピタルも孤児院も建てられるのネ?」 「当然よ」 「スッゴイ! 早く、お山の砦に運んだ方がいいんじゃない?」 「ダメじゃ」と藤兵衛は泥だらけの足を拭きながら言った。「今、そんな事したら、湖賊らに奪われてしまうわ。奴らが引き上げるまで待つ。ここに隠しておいた方が安全じゃ」 「そうネ。あの人たち、いつまでいるの?」 「さあな、分からん。盗む物があるうちはいるじゃろうな」 「あたしたちは、それまで、ずっと、ここにいるの?」 「わしは小太郎と孫一が来るまではここにいる。修行者たちは一旦、山に返すから、お前たちも一緒に行ってもいいぞ」 「あたしは小太郎様の帰りを待つ」とジュリアは言った。 「あたしもここにいる」とマリアも言った。「ネエ、勘八様はどこ、行ったの?」 「長浜にいるはずじゃ。向こうも大騒ぎじゃろう」 「大丈夫かしら?」 「おめえを残して、奴が死ぬ事はあるめえ」と久六が冷やかした。
長浜城下は長浜の北にある山本山城の 淡路守は藤吉郎に竹生島の利益を奪われた事を恨み、十兵衛が信長を殺した事を知ると、すぐに十兵衛に呼応して長浜城下を襲撃した。しかし、すでに城内にいた藤吉郎の奥方、お祢を初めとして、留守を守っていた者たちは皆、逃げ去っていたため無事だった。夢遊の家族たちも、城下にある我落多屋の者たちと一緒に伊吹山麓に逃げ去っていた。
備中と備前の国境にいる夢遊たちも日が暮れる頃より忙しくなっていた。 街道は蜂須賀小六の兵によって封鎖され、脇道や山中にいたるまで、夢遊の配下が見張っていた。怪しい者はすべて捕まえ、無理に通ろうとする者は殺しても構わんと夢遊は命じていた。 「どうした? 信長は死んだんじゃな?」 夢遊は期待を込めて新五を見つめた。ところが、新五は首を振った。 「ナニ、失敗したのか?」 「いえ、違います。二日の未明、十兵衛の軍勢が京都に攻め込んだ後、すぐに、こっちに向かいました。あれから、すぐに本能寺は襲撃されたに違いありません」 「そうか。十兵衛が京都に攻め込んだのは確かなんじゃな?」 「はい」 「となると、間もなく、本能寺の襲撃を見た者たちがやって来るな。源右、頼むぞ」 源右衛門は持ち場に戻って行き、夢遊は小六の所に新五を連れて行って報告させた。 それから一時(二時間)後、十兵衛からの密書を持った者が名越山を越えようとして捕まった。名越山を越えれば藤吉郎の陣だった。毛利方に行くはずの使者が間違えて、藤吉郎の陣に向かっていた所を捕まったのだった。この使者によって、信長の死は確実となり、藤吉郎は至急、毛利との和睦をまとめるために動き出した。 その後、密書を持った者はいなかったが、国境突破を試みる山伏や忍びの者が何人か殺された。 『信長死す』との知らせが来ると藤吉郎は直ちに、毛利方の使者、安国寺 翌日、六月四日の 藤吉郎としては直ちに引き返したかったが、毛利に怪しまれるので、毛利の軍勢が引き上げるのをジッと待っていた。その間も、夢遊らは国境を守り続け、京都の異変を知っている者を何人も捕まえていた。 その日は、城内にいる者たちを救出しているうちに日が暮れた。 その夜、毛利の陣中に忍び込んでいた夢遊の配下が慌てて、夢遊のもとに飛び込んで来た。毛利が信長の死を知ってしまったという。 「馬鹿な」と夢遊は疑った。 「確かです。兵たちには知らされていませんが、武将たちには知らされた模様です。和睦がなった今も、いつでも出撃できる態勢を取って待機しています」 「どこから漏れたんじゃ?」 「分かりません。街道が封鎖された事を知って、遠く山中を迂回したのではないかと」 「うむ、かもしれん‥‥‥とにかく、藤吉郎に知らせなければならんな」 夢遊は新五を呼ぶと、忍びの頭を全員集めるように命じ、藤吉郎の本陣へと向かった。
その夜、新堂の小太郎が雑賀から安土に戻って来た。 途中で信長の死を知っていたが、城下の有り様を見て、しばし呆然となる程、驚いた。まともな家は一軒もなかった。台風が通過した後のように町は荒れ果てていた。 ジュリアの事が心配になり、急いで我落多屋に向かうと我落多屋もひどい有り様だった。 小太郎は大声でジュリアの名を叫びながら、屋敷の方に回った。 メチャクチャに荒らされている屋敷を眺め、「遅かったか‥‥‥」と呆然と立ち尽くしていると、「小太郎様」とジュリアが二階から降りて来て、小太郎に抱き着いて来た。 「無事だったか‥‥‥」小太郎は目を潤ませながら、ジュリアを見つめた。 「大丈夫よ。あたしは元気よ」ジュリアは小太郎の頬を両手で撫でた。 「よかった‥‥‥それにしてもひでえな。こんなひでえ事になるとは思ってもいなかったわ」 「おう、帰ったか」と藤兵衛とおさやが顔を出した。 「孫一は来たのか?」と藤兵衛は聞いた。 「大津で別れた。明日には船を盗んで、こっちに来るんじゃねえのか。黄金の方は大丈夫なのか?」 「長谷川屋敷の下で眠ってるわ。ただのう、城の回りは湖賊の船で埋まってる。孫一の船が来たとしても、長谷川屋敷から運び出すのは難しいぞ」 「城下を荒らしたのは湖賊だったのか‥‥‥」 「奴らは好き勝手に暴れ回っておるわ。誰も止める者がおらんからの」 「そうか‥‥‥とにかく、休ませてくれ。疲れたわ」 小太郎はジュリアに連れられて、二階へと上がった。
六月五日、藤吉郎の兵と毛利の兵は高松城を埋めている湖を挟んで睨み合っていた。もし、毛利が攻めて来れば、水をせき止めている堤防を壊して、水攻めにして引き上げる作戦を藤吉郎は立てていた。しかし、敵の方が兵力が上回り、無事に逃げる事ができたとしても、十兵衛を相手に弔い合戦をする事は難しかった。 藤吉郎は陽気な顔で家臣たちを励ましながらも、心の中では、毛利が引き上げてくれる事を必死に神に祈っていた。 夢遊らは国境閉鎖をやめて、毛利方の動きを探ると共に、吉備の中山に陣を敷いていた。この山を敵に取られれば、藤吉郎は退路を塞がれ帰れなくなってしまう。絶対に敵に渡してはならない重要な地点だった。 毛利の軍勢が攻め寄せて来れば、百人程度の忍びが守っている山など一たまりもないが、敵を刺激させないために、藤吉郎の軍勢をここに移す事はできなかった。夢遊はあちこちに罠を仕掛け、命懸けで、この山を守る気でいた。 「毛利は攻めて来るかしら?」とお澪が心配顔で聞いた。 お澪も配下を連れて、児島半島から戻って来ていた。 「攻めて来れば藤吉郎は敗れる。わしらも皆、討ち死にじゃ。そうなったら、そなたは無事に逃げてくれ」 「あなた、死ぬ気なのネ?」とお澪は夢遊の顔を覗いた。 「いつでも、死ぬ覚悟はできておる」と夢遊は笑った。 お澪の肩を抱くと、「ただ、そなたをもう一度、抱いてから死にたいのう」と言った。 「今晩、抱いてよ」とお澪は肩に置いた夢遊の手を握った。 「おいおい、そう簡単に言われると、わしは明日、死ななけりゃならなくなるぞ」 「ダメよ、死んだら。あたし、あなた以上の男を捜さなくちゃならないじゃない」 夢遊はお澪の腰を両手で抱くと、「他の男を捜すのか?」と聞いた。 「あなたが死んだらネ‥‥‥でも、そんな人、いないでしょうから尼になるわ」 「尼になるのか‥‥‥勿体ねえのう」 夢遊はお澪の長い黒髪を優しく撫でた。 「だから、死なないでよ」 「うむ」
夢遊が命懸けで、毛利の軍勢を眺めていた頃、安土に明智十兵衛の軍勢がやって来た。 荒れ果てた城下を眺め、十兵衛は顔をしかめながら城へと向かった。 暴れ回っていた湖賊たちは慌てて船へと逃げて行ったが、船は去る事なく、成り行きをじっと見守っていた。 十兵衛は引き連れて来た兵を展開して、城攻めの態勢に入った。ハ見寺を本陣とし、二の丸と天主のある本丸を囲むように兵を配置した。 城を守っている木村次郎左衛門に城を明け渡すように使いを送ったが、次郎左衛門は断って来た。十兵衛は仕方なく、総攻撃を命じた。半時(一時間)余りの猛攻のすえ、次郎左衛門他、城内にいた兵は皆、討ち死にして果てた。 十兵衛は天主に登り、最上階から四方を眺め回し、天下を我が物にした事を実感していた。飛び上がって、大声で叫びたい心境だったが、家臣たちの見守る中、それはできなかった。 ふと、夢遊のとぼけた顔が浮かび、夢遊だったら、こんな時、どんな態度を取るのだろうかと考えてみたが、十兵衛には見当もつかなかった。難しい顔をしたまま、キラキラと輝く琵琶湖の景色を楽しむと満足そうにうなづいて、最上階から降りて行った。 四階の屋根裏部屋にある一万枚の黄金を見て、無事だった事を喜び、気前よく家臣たちに分け与えた。 黄金は地下蔵だけでなく、四階の屋根裏部屋にも一万枚置いてあった。信長に案内されて天主内を見物した者は皆、その黄金を目にしていた。夢遊もそれを見ていたが、地下蔵に三万枚余りもあるのを目にして、四階の一万枚もここに移したのだろうと思っていた。 黄金の蓄えられていた地下蔵の扉も打ち壊されたが、そこに黄金があった事を知っている者はいないし、抜け穴も発見されなかった。 湖賊は消えたが、今度は明智の軍勢が城下にあふれた。十兵衛の命令が徹底しているため、城下を荒らし回る事はなかったが、兵たちは空いている屋敷に入り込んでは、思い思いに休息していた。 我落多屋に残っている者たちは鎧を脱ぎ、武器を隠して、いつもの格好に戻ると店を片付けている振りをしていた。 明智の武将が来て、「町の者は皆、逃げたと思っていたが、まだ、残っている者がおったとは驚きじゃな」と声を掛けて来た。 「逃げ遅れてしまいまして、ずっと、隠れていたのでございます。うちはガラクタばかりで、大した物がないので、すぐに引き上げてくれたので助かりました」と藤兵衛が腰を低くして答えた。 「そうか。ひどい目に会ったのう。だが、もう大丈夫じゃ。城下は安全じゃから戻って来るようにと触れを出した。逃げた者も少しづつ戻って来るじゃろう。再建するのは大変じゃが、皆で力を合わせれば以前よりも立派な城下になる」 そう言うと武将は去って行った。 「もう大丈夫なのかしら?」とおさわが物陰から出て来て聞いた。 「さあ、分からんのう。藤吉郎殿が攻めて来れば、明智の軍勢はここから出て行く。そうなれば、今度は城まで荒らされる事じゃろう。お前たち女子は隠れていた方がいいぞ。見つかったら間違いなく、明智の兵に襲われる」 藤兵衛は小太郎と共に港に向かった。 港に着いた孫一の船は湖賊たちの船に囲まれていた。 孫一の船も湖賊たちの船も皆、『南無阿弥陀仏』と書かれた旗が風になびいている。 小舟に乗って孫一の船に渡った小太郎と藤兵衛は孫一に今の状況を説明した。 「ナニ、琵琶湖の湖賊など高が知れてるわ。わしらは荒海でさんざ暴れ回って来たんじゃ。鉄砲だってたっぷりとある。奴らに負けるものか」孫一は自信たっぷりに言った。 「しかしのう、敵は多いぞ。しかも、長谷川屋敷から黄金の入った箱を運び出す所が、奴らの船から丸見えじゃ。怪しんで襲って来る可能性が高い」 藤兵衛は心配顔で忠告したが、孫一は鼻で笑った。 「心配するな。わしらの力を見せてくれるわ。ところで、五右衛門はどうしたんじゃ?」 「京都におる。どさくさに紛れて働いている」 「ほう、安土の黄金を配下に任せて、京都で何を狙ってるんじゃ?」 「信長が持ち出した名物のお茶道具じゃ」 「お茶の道具の方が、黄金一万枚より値打ちがあると言うのか?」 「黄金の方が値打ちはある。しかし、名物のお茶道具というのは皆、この世に一つしかない物じゃ。信長が死ねば、その値打ちは益々上がって行く」 「ふん。わしは黄金の方がいいわ」 孫一は強きだった。さっそく、長谷川屋敷の見える城の裏側に船を回した。 湖賊の船の間を抜けながら、孫一の船は移動した。湖賊たちが船の上から、何者じゃと睨んでいたが、孫一は不敵な面構えで船首に仁王立ちしていた。 「あそこから運び降ろせばいいんじゃな?」 孫一は長谷川屋敷を眺めながら、藤兵衛に聞いた。 「降ろすのは簡単じゃ。あの通りに並ぶ屋敷は皆、空き家じゃからな。ただ、問題は長谷川屋敷じゃ。明智の軍勢がたむろしている。奴らに見つかると面倒じゃ」 「ふむ。となると夜、忍び込んで下まで降ろすしかねえのう」 「あるいは、明智の軍勢が去るのを待つかじゃな」と小太郎は言った。 「そうのんびりしてはおれん。今頃、雑賀は大騒ぎじゃ。信長に敵対していた者が大喜びして、わしらの領地を攻めているに違えねえ。さっさと黄金を奪って帰らなけりゃなんねえのよ」 その夜、孫一は鉄砲をかついだ五十人の兵を率いて、長谷川屋敷に忍び込んだ。 驚いた事に長谷川屋敷も荒らされていた。黄金を天主から移動した時は無事だったが、あの後、湖賊たちが忍び込んで暴れたようだった。抜け穴のある茶室も荒らされ、飾り物は奪われていたが、畳の下の抜け穴には気づかなかった。 藤兵衛と小太郎が屋敷内に潜入して調べると、メチャクチャに散らかっている部屋の中に 孫一らは無事に黄金の箱を湖岸まで運び、夜が明けるのを待った。 朝 船から小舟が近づいて来て、湖岸に着いた。黄金を積み込んだが、一回で運ぶ事はできなかった。三往復してようやく、すべてを船に積む事ができた。しかし、その頃になると朝靄も消え、湖賊たちが気づき、一隻二隻と船が近づいて来た。やがて、孫一の船は湖賊たちに囲まれた。 「わしらは行くが、おぬしはどうする?」と孫一は小太郎に聞いた。 「港で待っててくれるか? ジュリアを連れて行く」 「この様子じゃと、港に入れるかどうか分からんぞ」 「そうじゃな。いいわ、後で取り行くわ」 「そっちの分け前はどうする?」と孫一は藤兵衛に聞いた。 「どこに上陸するんじゃ?」 「大津じゃ」 「そこで待っている」 「よし、それじゃア、行くぞ」 孫一は小舟に乗って、船に向かった。 湖賊たちは無言で孫一を見ていたが、孫一が船に乗ると湖賊の一人が声を掛けて来た。 「何者じゃ?」 「雑賀の孫一じゃ」 「何を運んだ?」 「弾薬じゃ」 「弾薬を盗んだのか?」 「いや、 「ほう。孫一殿はまた、寝返ったのか?」 「寝返ってはおらん。わしは最初から本願寺のために働いておるんじゃ」 湖賊らの船から、ドッと笑い声が起こった。 「本願寺のために働いておるのはわしらじゃ。本物の孫一殿なら、琵琶湖に来て、わしらに挨拶しねえはずはねえ。この偽者めが!」 藤兵衛と小太郎は湖畔で顔を見合わせた。 「雲行きが怪しくなって来たぜ」と小太郎は言った。 「危ねえな」と藤兵衛も唸った。 「わしは本物の孫一じゃ」と孫一は叫んでいたが、湖賊らは孫一の船に対して鉄砲を撃って来た。 孫一も負けずに鉄砲を撃ちながら、湖賊らの船の間を突破した。 「さすがじゃのう。逃げられるかもしれねえ」 二人は山の上に登って、湖上の戦いを見物した。 孫一の船は敵の囲みをうまく脱した。逃がすものかと湖賊の船はあちこちから集まって来て数を増し、孫一の船を追いかけて行った。 孫一の逃げた方向が悪かった。正面に細長い島があり、左に曲がらなければ逃げられない。左に方向を変えたが、すでに遅く、また、敵に囲まれてしまった。 孫一の船は湖賊の船に体当たりしながらも突き進んで行った。しかし、四方から鉄砲を撃たれ、火矢を打ち込まれ、ついに、燃え始めてしまった。 「あ〜あ、黄金が沈む‥‥‥」と小太郎は悲鳴を上げながら、湖畔に駈け下りた。 「やはり、やられてしまったか‥‥‥」藤兵衛は溜め息をつきながら、首を振った。 火に包まれた船はゆっくりと湖中へ沈んで行った。 湖賊たちが喚声を上げているのが聞こえて来た。 「勿体ねえなア、畜生め!」小太郎は悪態を付きながら、何度も、石ころを琵琶湖に投げつけていた。 「ピーヒョロロ」とトンビが馬鹿にしたように鳴きながら、琵琶湖上を飛び回っていた。
その頃、備中では睨み合いが、まだ続いていた。昨日、一日中、睨み合い、今日になっても睨み合っている。 夢遊は昨日のうちに敵が中山に攻めて来るに違いないと覚悟をしていたが、敵はまったく動かなかった。 昼過ぎになって敵は動き始めた。いよいよ、攻めて来るのかと皆、緊張して敵の動きを見守った。敵の軍勢は西へと撤退して行った。 夢遊らは助かったと手を取り合って大喜びした。 藤吉郎は今朝、暗いうちから少しづつ兵を岡山城へと移動させていた。毛利の軍勢が全員、引き上げるのを見届けてから全軍を退去させた。 毛利の撤退を確認すると、夢遊らは京都を目指した。新しい敵となる明智十兵衛の状況を調べなくてはならなかった。藤吉郎を勝たせるため、正確な情報をつかんで知らせなければならなかった。 七日、藤吉郎の軍勢は暴風雨の中を突っ走って、夜になって姫路城に着いた。 八日は一日、休養を取って兵を休め、九日の早朝、姫路を発ち、十二日には摂津の 夢遊らが一足先に、『羽柴殿が毛利と和睦し、大軍を率いて弔い合戦に来る』との噂を流したため、十兵衛の指揮下にいた有岡城主の池田勝三郎、茨木城主の中川瀬兵衛、高槻城主の高山右近らが藤吉郎に合流した。さらに、大坂にいた信長の三男、信孝と丹羽五郎左衛門も加わり、三万五千に膨れ上がった藤吉郎の軍勢は山崎へと向かった。 十三日の 天王山東麓の円明寺川を挟んで、激しい攻防が繰り返された。必死の明智軍も手ごわかったが、兵力において倍以上の藤吉郎の軍が押しまくり、日が暮れる頃には明智軍は総崩れとなり敗走して行った。 十四日に十兵衛は落ち武者狩りにあって殺され、翌日、首は本能寺に晒された。 夢遊も大勢の見物人の中に紛れて見物したが、その首は半ば腐っていて、本人と見分ける事は困難だった。 夢遊がお澪と共に安土に帰ったのは、六月の十六日だった。 安土を出てから一月も経っていないのに、安土の城下は信じられない程、悲惨な有り様だった。 安土の象徴だった輝かしい天主がなかった。 天主だけでなく、本丸御殿も二の丸屋敷も焼け落ちていた。 町中は家という家が皆、破壊され、中には焼け落ちている物もあり、完全に廃墟と化していた。 我落多屋の看板もなくなっていたが、店も屋敷も何とか残っていた。 夢遊が二階を見上げるとマリアが手を振り、「お帰りなさい」と笑いながら叫んだ。 夢遊が手を振り返すと、新堂の小太郎とジュリアも顔を出した。 「やっと、帰って来たか。藤吉郎がやったらしいの」と小太郎は拳を振り上げた。 「一時は危なかったが、うまく行ったわ」と夢遊も拳を突き上げた。 藤兵衛がガラクタを踏み分けて出て来た。 「無事じゃったか?」と夢遊は店の中を覗いた。 「はい、何とか」と藤兵衛は笑いながら、ガラクタをまたいで来るおさやの手を引いてやった。 「お帰りなさいませ」とおさやは藤兵衛の隣で、ニコニコしながら夢遊を迎えた。 「おう、おめえも無事じゃったか。しかし、ひでえもんじゃな。一体、誰が天主を焼いたんじゃ?」 「昨日の夕方ですよ。突然、燃え出しましてね。一晩中、燃えていました。幸い、風がなかったからよかったものの、ここも危ない所でしたよ。どうも、北畠 「信長の次男か?」 「ええ。城に入ったけど、城内はメチャメチャだったんでしょう。腹を立てて、火を点けたんでしょうかねえ」 「十兵衛がメチャメチャにしたのか?」 「いいえ。明智の軍勢が十四日の朝、引き上げてから、中将殿が十五日の昼過ぎに来るまで、城は無人状態だったんですよ。湖賊どもが城に潜入して、やりたい放題やってました」 「天主にも登ったのか?」 「ええ。一番上まで登って、大声で叫んでましたよ。城内にあった財宝はほとんど、明智が持って行ったので、奴らは金箔を押した 「湖賊がやって来たのか‥‥‥」と夢遊は港の方を眺めた。 「湖賊って、本願寺の門徒なんでしょ?」とお澪が聞いた。 「らしいのう。長年の恨みを晴らしたんじゃろうな」 「凄い恨みだったのネ。城下を全滅にしちゃうなんて」 「本願寺だけじゃねえ。信長を恨み、浮かばれねえでいる者たちの霊が、奴らに乗り移ったのかもしれん」 「そうかもしれないわネ」 「それで、黄金はどうなったんじゃ?」 「残念な事に、湖賊たちにやられて、孫一の船は沈んでしまいました」と藤兵衛は申し訳なさそうに言った。 「ナニ、黄金が琵琶湖に沈んだのか?」 夢遊は驚いて、藤兵衛を見、そして、おさやを見た。 「はい‥‥‥三十箱ばかり」と藤兵衛は言った。 「三十箱? 残りの七十箱はどうした?」 「抜け穴の池の中に隠しておいて、湖賊らが消えた昨夜から今朝にかけて、運びました」 「ここにあるのか?」 「はい」 藤兵衛がガラクタをどけると中から、黄金の入った箱が現れた。 「七十箱というと二万一千枚か‥‥‥まずまずじゃな。よくやった」 夢遊は箱の中の黄金を手に取って眺め、満足そうにうなづいた。 「あたしの分け前はあるの?」 お澪が夢遊から黄金を取って聞いた。 「うむ。そなたにもやらなければなるめえな。世話になったからのう。十箱でどうじゃ?」 「あとの六十箱は?」とお澪は不満そうな顔をした。 「あとはみんな、南蛮寺に寄付するさ」と夢遊は黄金の箱をガラクタで隠した。 「なんですって?」 皆が同時に言って、夢遊を見つめた。 「みんな、寄付する?‥‥‥まさか、本気じゃないんでしょ?」と藤兵衛が目を点にして聞いた。 「もともと、マリアとジュリアが持って来た仕事じゃ。当然じゃろ?」 夢遊は真面目な顔をして皆を見回した。 藤兵衛は呆然としたまま、急に力が抜けたかのように崩れ落ちた。おさやが慌てて、支えたが支え切れずに、二人は倒れ込んでしまった。 お澪が急に笑い出した。 「あなたらしいわ」と言うと夢遊の手を引いて、無残な姿になった小野屋に連れて行った。 「あたしの十箱も寄付していいわ」とお澪は言った。 「そう言うと思っていた」と夢遊は笑った。 お澪は夢遊をかつての自分の屋敷に連れて行った。 床の間の飾り物は消え、襖は破れ、着物や書物が散らばり、お椀や酒のとっくり、腐りかけた食い物のカスまでもが散らかり、ハエが飛び回っていた。 お澪は縁側に腰を降ろすと、「やっと帰って来たわネ。あまりにも変わり果ててしまったけど」と屋敷の中を見回した。 「一人の男が死んで、その男が作った町が消え去ったというわけじゃな。その男を殺した男も殺された。坂本の城下も今頃、湖賊たちが暴れ回っておるじゃろうな」 「そうネ‥‥‥でも、湖賊たちが盗んだ物は一体、どこに行くのかしら?」 「多分、京都の我落多屋じゃろうな」 「あなたもまた、忙しくなるわネ?」 「ただ、残念なのは、信長の奴、名物のお茶道具のほとんどを本能寺に持って行ったらしいからのう。名物が信長と一緒に燃えちまったわ」 「大丈夫よ。燃える前にちゃんと、いただいたから」 「ナニ、本当か?」夢遊は驚いて、お澪を見つめた。 お澪は笑って、うなづいた。「そのへんは抜かりないわよ。今頃、 「そうか、そいつはよかった。そういえば、十兵衛に 「へえ、虚堂の墨跡を‥‥‥十兵衛様らしいわネ」 「十兵衛も天下を取ったのはたったの十二日だけじゃったのか‥‥‥可哀想じゃのう。今、思えば、風摩に躍らされただけじゃねえのか。本能寺に晒された首は何となく情けねえ面をしてたぞ。あれは本当に十兵衛の首なのかのう。どこか違うような気がしたが」 「気のせいよ」 「そうじゃな。天下を取った絶頂から一気に転落したんじゃからな。顔付きも変わるじゃろう」 夢遊はお澪と共に鴬燕軒に向かった。鴬燕軒も無残に荒らされているに違いないのに、お澪は風呂に入りたいと言って聞かなかった。夢遊も風呂に入って、サッパリしたい心境だったが、湯殿が無事であるとは考えられなかった。 ところが奇跡か、鴬燕軒は無事だった。辺り一面がメチャクチャに荒らされているのに、鴬燕軒だけが場違いのように、以前と変わらず、そこに残っていた。 「信じられん」と夢遊は『鴬燕軒』と掲げられた門をくぐって、屋敷内に入った。 どこにも荒らされた形跡はなかった。 「一体、どういう事じゃ?」と夢遊はお澪に聞いた。 「与兵衛が守ってくれたのよ」とお澪はニコッと笑った。 「小野屋の与兵衛か?」 お澪はうなづいた。 「どうして、与兵衛が店をほったらかして、ここを守るんじゃ?」 「あたしが頼んだのよ」 「ほう、あいつがのう。わしは苦手じゃったが、わりといい奴なんじゃな」 「うん。与兵衛はあれでも陰流の使い手でね、愛洲移香斎様を尊敬してるの。あたしの言う事は何でも聞いてくれたわ」 「成程のう。それで、奴はどこに行ったんじゃ?」 「気を利かせて、消えたんじゃないの」 「そうか」とうなづくと、夢遊は突然、「オブリガード(ありがとう)、与兵衛」と大声で叫んだ。 「デ・ナーダ(どういたしまして)」と遠くの方から返事が帰って来た。 夢遊とお澪は顔を見合わせて笑った。 湯殿に行くと、湯舟には丁度いい湯加減のお湯がたっぷりと入っていた。 「よく気が利く奴じゃな」 「ほんと」 二人は汚れた着物を脱ぎ捨てると湯舟に浸かった。 「ああ、気持ちいい」 お澪は湯の中で体を伸ばした。 「ここを守ったのは正解じゃったな。まるで、極楽のようじゃ」 夢遊は顔をこするとお澪を抱き寄せた。 お澪は夢遊の顔を覗き、ニヤニヤしながら、「あのネ、ほんとの事、教えてあげましょうか?」と言った。 「なんじゃ、ほんとの事とは?」 夢遊はお澪の乳房を抱いた。 「本能寺に晒された十兵衛様の首なんだけどネ、あれは偽物なの」 「何を言ってる。そなたがそんな事、知ってるわけがねえ。わしとずっと一緒にいたんじゃからな」 お澪は首を振った。 「最初からの約束だったの」 「何が約束なんじゃ?」 「十兵衛様、なかなか、決心しなかったでしょ。あの人、頭がいいから色々と計算して、自分が絶対に不利だって言い張っていたんですって。信長様を殺すのはいいけど、その後の事が問題だったの。藤吉郎様が攻めて来る事は予想できなかったらしいけど、十兵衛様は北陸にいる柴田様にやられると思っていたのネ。やられるのが分かっていて、信長様は殺せないって言ってたらしいわ。そこで、西之坊様は考えて、十兵衛様が柴田様にやられたら、助け出して小田原に連れて行くって約束したのよ。十兵衛様はもう一度、違った生き方をしてみようと決心して、ようやく、うなづいたの。今頃、小田原に向かってるはずよ」 「十兵衛が生きてる‥‥‥」夢遊はお澪の顔をじっと見つめた。 「十兵衛様は死んだのよ。別人になって新しい人生をやり直すんじゃない。あなたのように気ままに生きるのかもネ」 夢遊は顔を洗うと、「まったく、どうなってるんじゃ」と自分の頭をたたいた。 「風摩に 「まさか。信長様は死んだでしょ。今更、出て来たって、もう手遅れよ。時代は信長様から藤吉郎様に移ってしまったわ」 「うむ、藤吉郎の天下じゃ‥‥‥奴がどんな世の中を作るか楽しみじゃのう」 「もう戦はいやだわ。平和な世の中にしてもらいたいわネ」 「そうじゃな」 夢遊は湯舟の中に顔を沈めるとお澪の体に抱き付いて行った。 その頃、弔い合戦に勝利した藤吉郎は大軍を率いて安土に来ていた。 焼け落ちた天主を見つめながら、涙をこぼし、「上様‥‥‥」とつぶやいた。
完
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