2.五月屋のお政
百々一家は境宿に四つの 境の ところが、大黒屋と佐野屋の賭場を預かっていた 一晩中、降っていた雨も朝にはやみ、お 伊三郎は博奕打ちの親分でありながら関東 関東取締出役というのは 彼らは江戸に住んでいるため、地方を巡回するには道案内を必要とした。道案内は原則として村の 道案内は無報酬だが、八州様を後ろ盾にした役得は多い。博奕を見逃してやるからと 伊三郎は十手の力で百々一家を早く潰したいと思っているが、伊三郎としても簡単に手を出す事はできなかった。伊三郎は世間の目を非常に気にして、 伊三郎は百々一家にやって来ると角次郎と 桃中の旦那というのは 桃中の名を聞くと伊三郎は顔をしかめ、逃げ隠れするとためにならねえぞと帰って行った。伊三郎と一緒に、用心棒の永井兵庫と浮世絵師の歌川貞利がいた。貞利はお常を美人絵に描いた浮世絵師で、話を聞きながら画帖に何やら書いていた。いつも一緒にいる信三の姿はなかった。 忠次に命じられて、お常の行方を捜している 『五月屋』は下町の東の端にある 驚いた事に、お政はお常に負けない程の美人だった。長い事、境宿にいて、こんな美人を知らなかったのは不覚だったと久次郎はお政に見とれた。お常は派手で目立ちたがりだが、お政は控えめな性格なのかもしれない。ほっそりとした落ち着いた感じの美人だった。 「あら、お常ちゃん、まだ帰らないんですか。いやねえ、どこ行っちゃったのかしら」 お政はいざり お常の男関係を聞いてみたが、お政はあまり知らなかった。当然、 「でも、お常ちゃんを追いかけてる男の人は一杯いますよ。お常ちゃんも適当にあしらってるようだけど、中には冷たいと恨む人もいるかもしれないわ。もしかして、そんな人にさらわれちゃったのかしら。あら、やだ。そんな事ないですよね」 お政は自分の言った事を否定するかのように首を振った。 「それも充分考えられます。誰か不審な男に心当たりはねえですか」 「ただ、そんな噂を聞いただけ。詳しい事は何も知りません」 お政の話からわかった事はお常とお政、それと 浮世絵師、歌川貞利は去年の四月、十六枚揃いの錦絵『美人 久次郎もその噂は知っていた。秀吉らが騒いでいたが、奴らと一緒にわざわざ三人娘を見に行く気にはならなかった。 「今、島村の親分が 「あら、先生も来てるんですか」 お政は少し驚いたようだったが、先生に会いに行こうとはしなかった。 「お常さんを最後に見たんが先生らしくて、心配になって捜してんだんべ」 「あたしは興味ありません。確かに、先生はいい男だけど、あたし、ああやって、みんなと一緒になって騒ぐの好きじゃないんです」 「ここには、まだ来ねえのか」 「来ませんよ、ここには。あたしに聞いたって何も知らないもの。お常ちゃんと仲がいいのはお菊ちゃんとお海ちゃんです。その二人に聞けば色々と知ってると思いますけど」 「その二人も先生にくっついてるんでね。伊三郎が一緒だから、つまらねえ騒ぎは起こしたくねえんですよ」 「そうですか」と言って、お政は庭を眺めてから久次郎を見て、「でも、 久次郎は軽く笑って、「 「これから、村田屋さんに行こうと思ってんだけど、どうせ、おたかさんも何も知らねえだんべえな」 「多分‥‥‥」 お政も一緒に付いて来てくれた。 貞利は今、平塚に住んでいるが、お政たちの絵を描いた頃は木崎宿に住んでいて、商人宿の井上屋に滞在して三人を描いたという。 貞利は島村の富農の次男に生まれ、十七歳の春、江戸に出て、有名な浮世絵師、歌川国貞の弟子になった。江戸で役者絵や美人絵を何枚も売り出したらしいが、兄弟子と喧嘩して、二年前に故郷に帰って来た。帰って来た貞利は例幣使街道の木崎宿に落ち着いた。木崎宿は境宿の一里半程、東にある宿場で 孝兵衛は貞利の師匠、国貞が吉原の その頃、江戸では歌川広重の『東海道五十三次』が売り出されて評判になっていた。貞利もそれに刺激されて、去年の三月、次の作品として日光例幣使街道の各宿場の素人美人を描こうと計画した。 貞利が境宿にやって来たのは四月の半ばだった。皆が思っていたよりもずっと若く、いい男だったので娘たちが騒ぎ出した。貞利が滞在した井上屋の離れには、お常、お政、おたかの三人以外の娘たちも押し寄せ、大騒ぎとなった。それでも、貞利が帰った後、わざわざ、木崎宿まで会いに行く者はいなかったが、去年の八月、平塚に越して来ると、お常を中心とした娘たちが貞利の家まで遊びに行くようになったという。 中町の 『村田屋』のおたかは久次郎も知っていた。煙管や煙草入れを買いに行った事もあるし、村田屋の美人三姉妹は町中でも有名だった。長女のおいちはすでに嫁に行っていないが、次女のおたか、三女のおしんの二人が看板娘として店番をしている。お政が一緒だったので、おたかも気を許して色々と話してくれた。しかし、お常の事はあまり知らなかった。 貞利の話になると、おたかは外を眺めている妹のおしんを おしんは両手を胸の前で合わせ、大きな目でじっと貞利を見つめていた。その姿はいじらしいくらいに可愛いかった。 「先生たちはどこ行った」と久次郎はおしんに聞いた。 「よくわからないけど、勇吉さんちみたい」 「お海ちゃんのお兄さんですよ」とおたかが説明した。 「 「前にお常ちゃんが付き合ってたんです」 「ねえ、音吉つぁんはうちにいるの」とお政がおたかに聞いた。 「いるみたいよ。あん時、別れてから、お常ちゃんが音吉つぁんちに行くのは見た事ないわ。あの後、おちまちゃんとうまくやってるようよ」 「そうなの、おちまちゃんと‥‥‥」お政は一瞬、暗い表情になり、「おちまちゃんも可愛いものね」とつぶやいた。 「あんた、やっぱり、音吉つぁんの事、気になるんじゃないの。ああいう苦み走った男、好きだもんね」 「なに言ってんのよ」お政はチラッと久次郎を見て、「あたしはお常ちゃんの心配してんじゃない」と怒ったように言った。 「あら、どうだか。それにね、最近になって、おゆみちゃんも出入りしてるようよ」 「えっ、あの娘が」お政は驚いて、目を丸くした。 「そのうち、おちまちゃんとおゆみちゃんが一騒動起こしそうよ。あんたの入る隙はないみたい」 「あたしは関係ないったら」 「そのおゆみってえのはどこの 「井筒屋ですよ。ほら、さっき、島村の親分さんと先生がいた太物屋の娘なんです」とお政が教えると、 「凄いんですよ、その娘」とおたかが小声で言った。外を眺めている妹を気にしながら、「男を見れば、すぐに色目を使うらしいわ。お常ちゃんのお兄さんも関係あったらしいのよ」と内緒話のように言った。 「へえ、そうなの。あたしは隣の藤次さんといい仲だって聞いたわ」 「あの娘、普通じゃないのよ。自分とこの番頭さんともうまくやってるらしいわ」 「その事は知ってるわ。何でも、その番頭さんは十三だったおゆみちゃんに乱暴して追い出されたんでしょ」 「それは昔の事よ。最近も別の番頭さんとこっそりやってるのよ。音吉つぁんもきっと 「そんな凄え娘がいるのか」久次郎はお政とおたかの顔を交互に見た。 「家庭の事情もあったんでしょうね。お母さんが死んじゃって、お父さんが二十も若い後妻をもらったのよ。その人とうまく行ってないらしいわ。番頭さんに乱暴されるまでのおゆみちゃんはおとなしい子だったんだけど、あの事件以来、すっかり変わっちゃったのよ」 「あ〜あ、帰っちゃった」と言いながら、おしんが店の中に戻って来た。 「なに、先生は 久次郎は通りを覗いた。下町の方を見ると、江戸道への曲がり角の辺りで、娘たちがそれぞれ散らばって行くのが見えた。 久次郎はお政とおたかにお礼を言って、村田屋を出た。 「ねえ、今度はどこに行くんです」とお政が追って来た。 「とりあえずは佐野屋のお菊だな」 「あたしが一緒の方が話しやすいでしょ」とお政はついて来た。 「いいのかい」 「いいんです。どうせ向こうに帰るんだから」 店先からおたかが久次郎とお政を見ながら、妹のおしんに何やらコソコソ言って意味ありげに笑った。久次郎は手を上げて、おたか姉妹と別れた。 古着屋の『佐野屋』にお菊もお海も揃っていた。 お菊はポチャとした体つき、丸顔で目が大きく、お海は痩せ形で顎のとがった顔に切れ長の目をしている。お政が一緒だったので、二人も喜んで話をしてくれた。ずっと貞利の後についていたので、伊三郎が誰と会って、どんな話をしたのかまで教えてくれた。 「でも、お常ちゃんが、どうして、中瀬に行ったのかわかんないんですよ」とお海が口をとがらせた。「しんさんていうのは何度か聞いた事あるんです。去年の暮れ頃かな、しんさんて言いながら、お常ちゃん、一人でニヤニヤしてたわ。しんさんて誰よって聞いても教えてくれないの。いつもなら教えてくれるのに、しんさんに限って教えてくれなかったんです」 「あたし、さっきから、ずっと考えてたんだけどね」とお菊が口を挟んだ。「島村の新八さんの事じゃないかしら」 「島村の新八?」 久次郎はお常の兄、小五郎が書いてくれた紙を見たが、新八の名はなかった。 「信三じゃなくて、新八ってえのもいるのか」 「信三さんじゃないですよ」とお菊は首を振った。「信三さんにはおかみさんも子供もいるんですよ。お 「そうね」とお海がうなづいた。「島村の親分さんの子分たちもお常ちゃんに言い寄ってたけど、信三さんはそんな事なかったわ」 「そうか。それで、その新八ってえのは言い寄ってたのか」 「言い寄ってたってわけじゃないけど、信三さんよりは新八さんの方だと思うわ」 「あたしは違うと思う。だって、二、三度しか会ってないし、お常ちゃんが新八さんと二人だけでいるとこなんて見た事ないもの。それに、どうして、あたしたちに内緒にするの」 「だって、新八さんにもおかみさんがいるのよ。噂になって、おかみさんにばれるのを恐れたのかもしれないわ。それに 「どんな奴なんだ」と久次郎はお菊とお海の顔を見ながら聞いた。 「平塚の先生の幼なじみなんですよ」とお菊が言った。「よく先生んちに来てたの。あたしたちが遊びに行った時も何回か会ったわ。お常ちゃん、こっそり、新八さんとできてんのかもしれない」 「そうかなア、信じられない」とお海は首をひねったが、「でも、中瀬でこっそり、会ってたのかしら」とお政を見ながら言った。 お政はわからないという顔をして久次郎を見た。 「そいつも中瀬生まれなのか」と久次郎は聞いた。 「生まれは島村なんだけど、島村にはおかみさんがいるでしょ、だから、中瀬で会ってたんかもしれないですよ」 「島村の新八か‥‥‥」 久次郎は新八の名を小五郎の書いた紙に書き加えた。 「どんな奴なんだ。背丈とか顔付きとかは」 「そうね、背が高くてね、渡世人の貫録っていうの、そういう感じです。顔付きはいい男っていうよりは、何ていうかな‥‥‥」 お菊が悩んでいると、「しぶいって感じよ」とお海が助け舟を出し、「そうね、そんな感じね」とお菊は満足そうにうなづいた。 二人が考えているしぶい感じというのが、どんなものなのか久次郎には見当もつかなかったが、会えばわかるだろうと、それ以上は聞かなかった。 「年はいくつなんだ」 「先生と同い年だって言ってたから、二十六じゃないかしら、ねえ」 お海はうなづいた。「でも、やっぱり、あたしには信じられないわ。お常ちゃんがこっそり、新八さんといい仲だなんて」 「だって、他にしんさんなんていないじゃない。中瀬には万吉さんがいるけど、万吉さんをしんさんて呼ぶわけないし、万吉さんはお常ちゃんに振られてから、最近、顔を見せなくなったわ」 万吉の事は秀吉から聞いていた。 久次郎は紙切れをお菊とお海に見せて、一人づつ聞いてみた。 「音吉つぁんは去年、お常ちゃんが付き合ってた人。一度、朝帰りして大騒ぎになったけど、そん時、無理やり、親に別れさせられてからは、もう会ってないわ」 「善次さんは去年、お常ちゃんに振られたわ。最近はお美奈ちゃんとうまくやってるって聞いたわ、ねえ、お政ちゃん」 黙って話を聞いていたお政は首を振ると、「お美奈ちゃんも振ったみたいよ」と言った。 「また振られたの、情けないわねえ。善次さんは落ち着きがないものね」 「次の与之助さんは隣の石屋の息子、ただの幼なじみですよ。与之さんはお常ちゃんが好きだけど、お常ちゃんは相手にしないわ」 「新六さんはしつこく付きまとってるわ。振られても振られても諦めないのよ。面白い人だから、お常ちゃんも適当に付き合ってるみたい。島村の親分さんが新六さんの事を中瀬のしんさんかもしれないって色々、聞いてたけど違ったみたい。その日、新六さんは木崎に行って遊んでたんですって」 「吉松つぁんはお常ちゃんちの職人さんでしょ。お常ちゃんが相手にしないわよ」 「勇吉つぁんはね、お海ちゃんのお兄さん。お常ちゃんが最初に付き合った人ですよ。もう二年も前の事。最近は全然関係ないわよ、ねえ」 「未練はあるみたいだけど、最近は全然、会ってなかったみたい」 「次の六郎さんはどうなのかしら」とお菊がお海に聞いた。 「島村の親分さんは六郎さんちには行かなかったわね。六郎さんもお常ちゃんが好きなのかもしれないけど、お常ちゃんから六郎さんの事はあまり聞かないわ」 「平塚の徳次さんもしつこく付きまとってるわね。でも、お常ちゃんは相手にしなかった。お金持ちだけど、お常ちゃんの好みじゃないのよ。かなりの遊び人みたいだし」 「どら息子ってえわけか」 「そう。仲間を引き連れて賭場にも顔を出してるはずですよ。伊勢屋さんにも行ってんじゃないの」お菊はそう言って、久次郎を見た。 久次郎は首を振った。「 「百々一家の角次さんはね、去年まで、お常ちゃんが憧れてた人なんです。でも、直接、口をきいた事はないはずですよ。角次さんもお常ちゃんが好きだったって事、知らないんじゃない」 「秀吉つぁんは面白い人だけど、先月、振られたわね」 「島村一家の豊吉つぁんとは一度、あたしたちと一緒に大黒屋さんでご飯を食べたけど、それっきりよ」 「勘五さんも付きまとってたけど振られたんじゃない」 「テキ屋の藤次さんも振られた口ね」 「そうなると、今、お常が付き合ってる男はこん中にはいねえのか」 「表向きは平塚の先生に夢中なんですよ。もし、隠れて誰かと付き合ってるとすれば、それは島村の新八さんだと思うわ」 「先生に夢中か‥‥‥おっと、先生の本名は何ていうんだ」 「利助さんです。お師匠さんから貞の字をもらって、利助の利を付けたんですって」 「利助じゃ、しんさんじゃねえな」 「当たり前じゃない。先生がしんさんであるわけないわ」 「島村の親分は一応、ここに書いてある男たちから話を聞いたんだな」 「六郎さん以外は。でも、何もわからなかったんじゃない。みんな、ちゃんとうちにいたし、お常ちゃんと一緒だったら、うちにいるはずないでしょ」 「そうだな。この他に、お常に近づいて来た男はいねえのか」 「それはもう一杯いますよ。錦絵が出てから、お常ちゃんは有名人だもの。あっちこっちから、わざわざ、お常ちゃんを見に来てたわ。でも、そういう人たちは大抵、一目見ただけで帰って行くの。でも、何を考えてるかわからないけどね」 「そうだんべなア」 お菊とお海と別れた後、久次郎はお政と一緒に、境宿に住む疑わしき男たちと会って話を聞いた。お政が一緒だったので、男たちもしぶしぶ、お常との関係を話してくれた。久次郎の見た所、お常を中瀬まで呼び出して密会し、その後、お常をどこかに隠して、しらばっくれて戻って来たような男はいないようだった。 境宿と百々村の間にある萩原村の 伊三郎と問題を起こしたくなかったので、伊三郎の 一通り、疑わしき男たちの話を聞いた久次郎は境宿の大通りを東に向かっていた。残るは平塚の 「中瀬に行くんですか」とお政が聞いた。 「行かなきゃならねえだんべな。その前に、大黒屋のおとしに会わなきゃなんねえ」 「あっそうか、おとしちゃんを忘れてたわね」 二人は下町の料理屋、大黒屋に向かった。 丁度、昼時で客が何人かいたが、お政が呼ぶとおとしは手を上げてうなづいた。しばらくして、大黒様の描かれた薄紫色の前掛け姿のおとしがニコニコしながらやって来た。 「久し振りだな」と久次郎は笑った。 おとしはキョトンとした顔をしていた。 「あら、知ってたの」お政が二人を見比べた。 「えっ、どなた。お政ちゃん、誰なの」 「わからねえか。四年前まで、ここの賭場にいたんだけどな」 「百々一家の人?」 久次郎はうなづいた。「あの頃、おめえはまだ十四だった。随分と綺麗になったな」 「やだ、綺麗だなんて‥‥‥あっ、わかった、久次さんでしょ」 「やっと、思い出してくれたか」 「でも、どうして、久次さんがお政ちゃんと一緒なの」 「久次さんもね、お常ちゃんのお兄さんに頼まれて、お常ちゃんを捜してるのよ」 「そうだったんですか」 おとしはお常と最後に会った時の様子を詳しく話してくれた。 「平塚の先生んちに行くの」とおとしが聞くと、お常は首を振って、「絶対内緒よ、中瀬のしんさんとこよ」と言った。 「えっ、誰なの」と聞くと、「いい人」と嬉しそうに笑って、急ぐように平塚の方に向かった。見るからに、いい人に会いに行くという感じだったという。 「荷物とかは持ってなかったんだな」 「ええ、いつもの小物入れだけでした。ああ、そうそう、おこそ 「中瀬のしんさんてえのは誰だかわからねえのか」 おとしは首を振った。「あれから、ずっと考えてたんだけど、一体、誰なんだかわからないんですよ。最初、信三さんかなって思ったけど、あの人からお常ちゃんの事なんて聞いた事もないし、それに、あの日は市の日だったでしょ。昼過ぎになって、信三さんは島村の親分さんと一緒にここに来たんですよ。ここに来る人に会いにわざわざ、中瀬まで行くわけないでしょ」 「そうか、信三はここに来たのか‥‥‥」 「ええ、島村の親分さんは市の日には必ず、ここと桐屋に挨拶に来るんです」 「成程な。その事は当然、お常も知ってたはずだな」 「知ってます」 「となると信三の線は消えるな」 久次郎は付き合ってくれたお礼にお昼を御馳走して、お政と別れた。 「何かわかったら知らせてくださいね」とお政は笑った。 「わかった」と久次郎は手を振った。
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1.登場人物一覧 2.境宿の図 3.「佐波伊勢崎史帖」より 4.「境町史」より 5.「境町織間本陣」より 6.岩鼻陣屋と関東取締出役 7.「江戸の犯罪と刑罰」より 8.「境町人物伝」より 9.国定一家 10.国定忠次の年表 11.日光の円蔵の略歴 12.島村の伊三郎の略歴 13.三ツ木の文蔵の略歴 14.保泉の久次郎の略歴 15.歌川貞利の略歴 16.歌川貞利の作品 17.艶本一覧