酔雲庵


国定忠次外伝・嗚呼美女六斬(ああびじょむざん)

井野酔雲





4.中瀬のしんさん




 百々(どうどう)村に帰った久次郎は円蔵に今日の調査の結果を話した。親分の忠次は田部井(ためがい)村の賭場(とば)の方に行っていていなかった。

 当時、忠次は百々村の他に生まれ育った国定村の隣村、田部井村にも拠点を持っていた。兄貴分の嘉藤太(かとうた)代貸(だいがし)の清五郎が中心になって、国定村と田部井村で賭場を開帳している。そして、国定村には妻のお鶴が母親と共に暮らし、田部井村には(めかけ)のお町がいた。忠次は二人の機嫌を取るために、時々、二人のもとに帰っていた。

「するってえと何か、利根川を渡ってから、お常は忽然(こつぜん)と消えちまったのか」と円蔵は渋い顔して煙草(たばこ)の煙を吐いた。

「へい」と久次郎はうなづいた。「境宿から平塚道に行くとこを大黒屋のおとしが見て、声を掛けてます。その後も横町の者たちに聞いてみたけど、何人かが平塚方面に向かうお常を見てます。そして、平塚の先生の所に顔を出して、渡し場に行って利根川を渡ります。舟頭(せんどう)も確かに、お常の事を覚えてるんです。ところが、中瀬に行ってからは誰もお常を見てねえんです。まさしく、忽然と消えちまったんですよ」

「そいつは妙だな」と円蔵は首をひねり、「神隠しにあったわけでもあるめえ」と笑ったが、すぐに渋い顔に戻った。「しんさんとやらに会いに行ったんなら、どこかで、しんさんと会ったはずだ。しんさんの他には知り合えはいねえのかい」

「知り合えという程でもねえでしょうが、中瀬の藤十の子分の万吉ってえのがお常に言い寄ってたけど振られたようです。それと、伊三郎といつも一緒にいる信三が、中瀬のしんさんじゃねえかって伊三郎の奴が疑ったらしいんですけど、白だって、新八って野郎が言ってました」

「奴は本当に白なのか」

「信三はお常がいなくなった日、伊三郎と一緒に境に来てます。お常が言ったしんさんとは別人でしょう。それよりも、島村の新八の方が怪しいようです」

「島村の新八? あまり聞かねえな」

「へい。伊三郎の子分で平塚の先生と幼なじみだそうです。先生んちによく出入りしていて、先生んちで、お常と会ってんです。お常の友達の話によると二人が付き合ってた風には見えなかったって言ってたけど、新八にはかみさんがいて、お常とこっそりと会ってたのかもしれません」

「ほう、そいつア洗ってみる必要あるな」

「奴は今日、先生と一緒に中瀬でお常を捜してました。てめえで隠しといて、しらっとぼけて捜してたんかもしれません」

「そいつは島村に住んでんのか」

「らしいです。島村にも行こうと思ったんだけど、あの辺りをウロウロしてると伊三郎に何を言われるかわからねえんでやめました」

「そうだな。つまらねえ事でいちゃもんつけられちゃアかなわねえ。奴らに(めん)が割れてねえ奴に調べさせた方がいいな」

「へい、そうしてくだせえ」

「とくかく、お常は自分の意志で中瀬のしんさんとやらに会いに行ってる。それ程の仲だったのに、誰もそのしんさんの正体(しょうてえ)を知らねえってなアおかしいな。境小町をものにすりゃア、男なら誰でも自慢するはずだ。それを隠してるってなア、その男にかみさんがあって、かみさんに内緒で付き合ってたってえ事かのう。あるいは、世間体を気にする町の有力者ってえのも考えられるな」

「町の有力者?」

「ああ。自分の娘のようなお常といい仲になっちまったが、世間に知られたら信用にかかわると隠してんのよ。お常はそんな男と付き合っちゃアいなかったか」

「そこまでは聞いてみませんでした。確かに、それもありえますね。明日、聞いてみます」

 円蔵はうなづいた。「しんさんが何者であったにしろ、これだけの騒ぎになりゃア、お常を連れて来るはずだ。それがねえとこをみると、しんさんと会った後、何かが起こったのかもしれねえな」

「平塚と同じように、あそこにもたちの(わり)人足(にんそく)が結構いますからね。酔っ払った人足に取っ捕まって、回されたあげくに殺されたか、自害したとも考えられますね」

「考えたくもねえが、こうなったら最悪の事態(じてえ)(かんげ)えてた方がよさそうだ‥‥‥ところで、お常は何で、先生んちに寄ったんでえ、何か用でもあったのか」

「用は別にねえでしょう。先生んちは船着き場へ行く途中にあるんですよ。ちょっと顔を見に行ったんじゃねえですか。それとも、お常は先生にも気があったってえから、自分がしんさんに会いに行くとこを見せつけて、先生の気を引こうと考えたのかもしれません」

「成程な。先生の方はどうなんでえ。いつも別嬪(べっぴん)に囲まれてる先生だ、一人ぐれえはいい仲になった娘だっているんだんべえ」

「それが、娘たちの話だと、先生に絵を描かれた娘でそんな関係になったんはどうもいねえようです。木崎には何人か馴染みの女郎はいるようだけど、堅気(かたぎ)の娘には手を出しちゃアいねえみてえです」

「ほう、勿体(もってえ)ねえな。あっしなら手当たり次第(しでえ)にやっちまうがな」

「軍師がですか」と久次郎は円蔵の顔をまじまじと見た。「そんな事したら、おりんさんに怒られますよ」

「うるせえ、黙ってろ」

 次の日、下植木(しもうえき)村の浅次郎、鹿(しか)村の安次郎、茂呂(もろ)村の茂八(しげはち)の三人を田部井村から呼んで、中瀬と島村に潜入させ、中瀬の藤十の子分の万吉、島村にいる新八と信三を調べさせた。

 国定と田部井にいる子分たちは忠次が百々一家の跡目を継いでから子分になった者が多く、境宿に滅多に顔を出さないので、伊三郎の子分たちに面が割れていなかった。忠次は伊三郎の動きを探る時、時々、彼らを呼んで偵察させていた。

 久次郎はもう一度、疑わしき男たちを調べて回った。お常がいなくなった七日の昼頃、どこにいたのか、そして、その晩、外泊しなかったかを中心に聞き回った。

 (かつら)屋の善次、井筒(いづつ)屋の新六、研師(とぎし)の音吉、お常の店の足袋(たび)職人、吉松(きちまつ)の四人が境宿から出ていた。他の者たちは昼は仕事をしていて、夜はうちにいたか、賭場に顔を出している。伊三郎の子分たちも当然、賭場にいた。平塚の徳次郎たちもその日、伊勢屋の賭場にいた事が確かめられた。

 善次は伊勢崎方面に煙草の行商(ぎょうしょう)に行っていて、その夜は伊勢崎に泊まったという。中瀬まで行ってお常と会う事もできるが、去年、振った男と会うために、お常がわざわざ、中瀬まで行くとは思えない。また、お調子者という感じの善次がお常と内緒で付き合う事はできそうもないし、その理由もなかった。

 音吉は仕事で伊勢崎に行き、夕方には帰って来て、新六の妹のおゆみと会っていたという。音吉は今、土屋のおちまといい仲で、おゆみとの事はおちまには内緒にしてくれと頼んで来た。久次郎はうなづいて、おゆみに会いに行った。

 昨日、お政たちが噂していたおゆみは噂通りの娘だった。まだ十五歳のくせに、やけに色っぽく、どこか投げやりな態度もゾクゾクッとさせる魅力があった。おちまがいながら、音吉がついフラフラとおゆみに惹かれたのもわかる気がした。おゆみはその晩、「朝までずっと、音吉つぁんと一緒だったの」と平気な顔をして言った。

 朝帰りなんかして、親に怒られないのかと聞くと、「そんなの平気よ。文句なんか言ったら、こんなうち、さっさと飛び出しちゃうもん」と大きな声で言う。

 帳場に座っている三十過ぎの番頭はおゆみの言った事を聞いていながら、聞こえない振りで算盤(そろばん)をはじいていた。

「ねえ、あたし、お(たつ)姉さんみたいに(つぼ)振りになれないかしら」とおゆみは久次郎に擦り寄って来た。

「簡単にはなれねえよ。厳しい修行を積まなくっちゃアな」

「そうか、やっぱり難しいんだ。それじゃア駄目ね。あたし、難しい事、苦手だから。誰かのお(めかけ)さんにでもなろうかな」そう言いながら、色っぽい目付きで久次郎を見た。

 久次郎は話題を変えて、兄の新六の事を聞いた。新六は昼は店で仕事をしていて、夕方になると弟の新七と(はす)向かいにある酒屋の手代、源太を連れて木崎宿に女郎買いに行って、朝帰りだったと言う。

「兄妹揃って朝帰りだったのよ」とおゆみはケラケラ笑った。

 一応、源太にも聞いてみたが、木崎宿に行ったのは本当のようだ。

 お常の店で働いている吉松は昼間はずっと仕事をしていて、夕方になって、お常が帰って来ないので捜してくれとお常の父親に頼まれ、お常の兄の小五郎と一緒に密かに捜し回っていたらしい。

 男たちを調べた後、久次郎は佐野屋に行き、お菊と会って、お常が年配の男と付き合っていないか聞いてみた。

 お菊は首をかしげた。

「おじさんとは付き合ってなかったんじゃないの。すけべなおじさんたちも言い寄って来たけど、お常ちゃん、そんなの相手にしなかったわ。だって、何もしなくても、結構いい男が集まって来るのよ。何も好き好んで、おじさんなんか相手にしないと思うわ」

「そうか。しかし、おじさんは若え者より金を持ってるぞ」

「そりゃア持ってるかもしれないけど、お常ちゃんはそういうのに興味なかったみたい。とにかく、面食いだったのよ」

「面食いか‥‥‥ところで、お常は前にも一人で中瀬に行ったりしたのか」

「今回が初めてだと思うけどわからないわ。でも、お常ちゃんから中瀬の事なんか聞いた事ないわよ。何となく川向こうっておっかないわ。舟頭さんを信じないわけじゃないけど、舟に乗って川の中に入っちゃったら、どこに連れてかれるかわかんないじゃない。たった一人で川向こうに行くなんて余程の事よ」

「そうだな。中洲に連れてかれて、やられちまうって事もありえるしな」

「そうよ。怖いわ」と言って、お菊は身震いしたが、久次郎は見ていなかった。通りを眺めていて、お菊の方を見ると、「前にも、しんさんてえのを聞いたって言ってたな」と聞いた。

「ええ」とお菊はうなづいた。「去年の暮れ頃よ。嬉しそうに、しんさんに会って来たって言ったの。しんさんて誰、どこの人って聞いても、ただ、内緒って、ニヤニヤしてたわ」

「そん時は中瀬って言わなかったのか」

「言わなかったわ。おとしちゃんには中瀬って言ったんでしょ。あたしたちに言ったら誰だかわかっちゃうって思ったのかしら」

「そうなると、しんさんてえのはおめえも知ってる男ってえ事になるな」

「そうよね、一体、誰なんだろ。やっぱり、新八さんじゃないの。他には考えられないわ」

「奴は昨日、平塚の先生と一緒に中瀬でお常を捜してたぜ」

「へえ、そうなの。という事はお常ちゃんの相手は新八さんじゃないのかしら」

「そいつはわからねえ。てめえでどこかに隠しといて、てめえで捜してんのかもしれねえ」

「だって、どうして、そんな事するの。お常ちゃんを隠したってしょうがないじゃない」

「家出をするって事は考えられねえか」

「そんな事ないわよ。前に音吉つぁんとの事でこっぴどく怒られて、家出をしてやるって言った事があったけど、結局、あん時だって家出なんてしなかったし、最近は親ともうまくやってたんじゃない。それに、家出するとすれば、あたしたちに相談するはずよ。この前だって、あたしたちにあれを持って来て、これも持って来てなんて騒いでたんだもん。お常ちゃん、中瀬に行く時、荷物なんて持ってなかったんでしょ。家出なんかするはずないわよ」

「そうか‥‥‥まったく、どこに消えちまったんでえ」

「お常ちゃん、大丈夫なのかしら」

「伊三郎の方は何か言って来なかったかい」

 お菊は首を振った。「彦六さんも捜し回ってるけど、何もわかんないみたい」

「そうか‥‥‥無事を祈るしかねえな」

 久次郎はお菊と別れるとお政の家に向かった。お政から聞く事は何もないが、お政の顔が見たかった。店には顔を出さず、裏に回って、お政が機織りしている部屋を覗くとお政はいた。何となく、ボーッとしているようだ。久次郎が挨拶するとお政は久次郎の方を見て笑い、部屋から出て来た。

「お常ちゃん、まだ、見つからないんですか」お政は心配そうな顔をして久次郎の側に座ると、久次郎を見つめた。

 久次郎は駄目だと言うように首を振った。

「ほんとにどうしちゃったんだろ。中瀬の方はどうでした」

「手掛かりは何もねえ。渡し場の舟頭はお常を見てるが、その後、見た者がいねえ」

「そう、変なの‥‥‥」

「そうか」と久次郎はお政を見ながら、ゆっくりとうなづいて、「舟頭が怪しいぞ」と手を打った。

「えっ?」

「さっき、お菊から話を聞いたんだが、お菊は一人じゃア、おっかなくて川向こうには行けねえって言ったんだ。もしかしたら、舟頭がお常を中洲に連れてって乱暴したんかもしれねえ。お常が騒いだか、激しく抵抗したんで殺しちまったんかもしれねえ」

「まさか」

「そうとしか考えられねえ。舟に乗ったんは確かだが、中瀬に着いてから誰にも見られちゃアいねえんだ」

「そんな‥‥‥」

「お政さん、すまなかったな。俺アこれから舟頭を調べて来る」

 驚いているお政に手を振ると、久次郎は飛び出して行った。一旦、百々村に帰って、手のあいている山王道(さんのうどう)民五郎(たみごろう)新川(にっかわ)秀吉(ひできち)を連れ、長脇差(ながどす)を腰に差して平塚の渡し場へと向かった。

 意気込んで行ったが利根川まで来ると、久次郎の考えが通用しない事がはっきりとわかった。夏ならともかく、中洲にはろくに草も生えていない。中洲に女を連れ込んで、悪さをしようにも川岸から丸見えだし、行き来している船からも丸見えだ。真っ昼間にそんな事ができるはずはなかった。

「兄貴、無理な話だぜ」と民五郎が小石を川の中に投げつけた。

「いい考えだと思ったんだがな。畜生、はなっからやり直しだ」

 三人は渡し場まで行き、お常を乗せた舟頭を呼んで、もう一度、詳しく話を聞いた。

「何度、聞いたって同じさ。わしはその娘を向こうに連れてっただけだ」

「その娘は舟を降りてから、どこ行ったんだ」

「どこって、土手を越えて江戸道の方に決まっていべえ」

「ずっと見てたのか」

「ああ、いい女子(おなご)だったからな。土手に隠れて見えなくなるまで、後ろ姿を見送ったんだ」

「兄貴、向こうに行って調べるべえ」と秀吉が舟に乗ろうとした。

「いや、駄目だ」と久次郎は止めた。「向こうにゃア、伊三郎の子分どもがお常を捜し回ってる。つまらねえ事で騒ぎを起こすわけにゃアいかねえ。帰るぞ」

「何でえ、つまらねえ。俺だって捜してえぜ」

 三人は引き上げた。帰り道、茶屋の娘、お糸が久次郎に手を振った。茶屋に寄ろうと思ったが、長脇差を差しているのでやめにした。

「兄貴、誰です。知り合えですか」秀吉がお糸を見ながら久次郎に聞いた。「なかなか可愛い女子じゃねえですか」

「柳屋の徳次と訳ありの女だ」

「あの野郎、いい思いしやがって。あんな野郎にゃ勿体(もってえ)ねえ。兄貴、まだ、こっちを見てますぜ」

 秀吉はお糸に手を振り返した。

「なあ、兄貴、ちょっと頼みがあるんだがな」と民五郎が急に真面目くさった顔をした。

「何でえ。あの女は駄目だぜ」久次郎は民五郎を睨んだ。「伊三郎のシマ内の堅気の女に手え出してみろ。奴が因縁(いんねん)を付けにやって来るに決まってらア」

「そうじゃねえんだ。境の髪結床(かみゆいどこ)『島屋』の娘、お栄を紹介してもらいてえんだ」

「何だと」久次郎は立ち止まって民五郎を見つめた。「そんな娘、俺ア知らねえぜ」

「兄貴、頼むよ。お栄はお常の友達のはずだ。お栄と話をしたんだんべえ」

「本当に知らねえって。島屋ってえのは下町の丁切(ちょうぎり)の近くにある髪結床だんべえ。何でおめえがそんなとこの娘を知ってんでえ」

「この間、たまたま、道で会って一目惚れしたのよ。こっそり後を付けてったら、その髪結床に入ってったんでな、俺も入って髪を直してもらったんだ。それから、何度か通ってんだけどよ、お栄はなかなか店にゃア出て来ねえんだ。話をするきっかけもねえ。ここに来る前もちょっと行って来たんだけど、そん時、親父が客と話してるのを聞いてな、お栄がお常の友達だって聞いたんだよ」

「へえ、お常の友達か。俺もまだ会っちゃアいねえが、一応、話を聞いてみるか」

「兄貴、すまねえ。一度、きっかけさえつかめりゃア、後は何とかなる」

「当たりめえだ。後の事まで世話が焼けるか」

 境宿に帰ると久次郎と民五郎は長脇差を秀吉に預けて島屋に向かった。

 お栄はお政と同じように、店の裏の部屋で機織りをしていた。民五郎が一目惚れするだけあって、なかなかの美人だ。スラッとしていて黒襟に(あい)色の(あわせ)がはちきれんばかりに胸が張っている。お常の事を聞いてみたが、最近の事はあまり知らなかった。お菊とお海に聞いた方がいいと言う。

「あなたが久次さんですか。お政ちゃんから噂は聞いてますよ。へえ、あなたみたいな人が百々一家にいたなんて知らなかったわ」

「こっちの方は島村の親分のシマになっちゃったもんで、用もねえのにウロウロできねえんですよ」

「そうですよね。大黒屋さんが側にありますものね。でも、うちの店に通って来るくらい大丈夫でしょ。そのついでにお政ちゃんとこに顔を出せばいいのよ」

「えっ?」と久次郎はお栄を見た。

「お政ちゃん、あなたにほの字みたい」と言って、お栄は笑った。

「本当ですか」と久次郎は聞き返した。

「だって、あんなにウキウキしてるお政ちゃん見たの久し振りだもの。あなたに会ってから変わったのよ。昨日、あなたの事をああだこうだって一人でしゃべってったわ。きっと、今頃、あなたの事を考えて、仕事も手につかないんじゃないの」

「あの、お政さんは今、付き合ってる男はいねえんですね」

「いないわよ」

「そうですか。ところで、お栄さんの方はどうなんです」

「あたし? あたしもいませんよ」

「そいつはよかった。こいつはお栄さんに一目惚れして、毎日、親父さんの店に通ってたんですよ」

「兄貴、何を言ってんです」民五郎が慌てて、手を振った。

「後はうまくやれよ」

 久次郎は民五郎の背中を押すとお政に会いに飛んで行った。






嗚呼美女六斬の創作ノート

1.登場人物一覧 2.境宿の図 3.「佐波伊勢崎史帖」より 4.「境町史」より 5.「境町織間本陣」より 6.岩鼻陣屋と関東取締出役 7.「江戸の犯罪と刑罰」より 8.「境町人物伝」より 9.国定一家 10.国定忠次の年表 11.日光の円蔵の略歴 12.島村の伊三郎の略歴 13.三ツ木の文蔵の略歴 14.保泉の久次郎の略歴 15.歌川貞利の略歴 16.歌川貞利の作品 17.艶本一覧




目次に戻る      次の章に進む



inserted by FC2 system