沖縄の酔雲庵

沖縄二高女看護隊・チーコの青春

井野酔雲





第一部




2.十月十日




 よく晴れた気持ちいい朝だった。

 千恵子が鼻歌を歌いながら家を出たのは六時半頃で、姉は洗濯をしていて、起きたばかりの父は寝ぼけた顔で歯を磨いていた。

 いつものように防空頭巾を抱え、モンペ姿に救急袋とリュックを背負って家を出た。

 救急袋は裁縫の時間に自分で作ったもので、中には救急薬品とガーゼ、包帯、手鏡、(くし)仁丹(じんたん)、裁縫道具などが入っていた。リュックの中には勉強道具に弁当、そして、今日は制服のスカートが入っていた。スカートは『四大節(しだいせつ)』などの大切な式典の時しか着用が許されていなかったが、ブラスバンド部員は演奏する時、スカート着用と決まっていた。

 県内の女学校でブラスバンド部があるのは二高女だけで、『愛国バンド』と呼ばれて主要行事には必ず参加していた。去年の夏、総理大臣の東条閣下が沖縄に来られた時も、沖縄守備軍の司令官、牛島閣下が赴任して来られた時も、また、異国で戦死した故郷の英雄を迎える時も那覇港で演奏した。千恵子は小学校六年生の時、紀元二千六百年祭で演奏している二高女のブラスバンド部を見て、憧れて二高女に入学したのだった。

 県立第二高等女学校は松尾山の高台にあって、近くには知事官舎や那覇市長官舎など高級官僚の住宅が並び、松山国民学校と、姉が通っている県立病院もあった。校舎は四年前に再建されたばかりで、まだ新しく『沖縄一』と言われる近代的な建物だった。通っている生徒は寄宿舎のある一高女が田舎出の娘が多いのに比べて、二高女は那覇出身者が多かった。鹿児島などの他県から来ている商人のお嬢さんたちも多く、それらの娘はほとんどが故郷に帰ってしまい、百五十名いた四年生も百名足らずに減っていた。

 松山国民学校の側まで来た時、千恵子は前を歩いている久美に気づいた。千恵子が駈け寄ると久美はガジャンビラの作業場で覚えた『タコ八の歌』を口ずさんでいた。

「久美、おはよう。また、その歌を歌ってるの」

 千恵子が声を掛けると久美は驚いたように振り返った。

「あら、チーコ、おはよう。何となく、口から出ちゃうのよ」白い歯を見せて明るく笑った。

 久美は久米島の出身で色白の美人だった。一年生の夏休み、千恵子は幼なじみの初江と一緒に久米島に遊びに行った事があった。千恵子も初江も初めて沖縄本島から離れる旅だったので、今でも鮮明に覚えている。久美の家に行くと、近所の人たちが大勢集まっていて大歓迎を受けたのはびっくりした。優しい人たちに囲まれて、綺麗な島での数日間は本当に楽しかった。また行こうねって言っていたのに、大東亜戦争が始まってしまい、夏休みも託児所の手伝いや、農作業の手伝い、陣地構築などに動員されて、行く機会はなくなってしまった。久美は二中に通っている弟と一緒に那覇にある祖母の家に住んでいた。

「いい天気でよかったね」と久美は雲一つない青空を見上げた。

「そうね」と千恵子も空を見上げた。その時、ブーンと唸るような音が遠くの方から聞こえて来た。

「何かしら」と久美を見ると、北の方を見渡しながら、「もう演習が始まったのかしら」と首をかしげた。

 北の方から、かなり高い所を何十機もの飛行機が編隊を組んで、こっちの方に飛んで来るのが見えた。

「本土から友軍が来たのよ、きっと」と久美は嬉しそうな顔をして言った。

 千恵子は本土じゃなくて、読谷山(よみたんざん)嘉手納(かでな)だと思ったけど口には出さなかった。

 突然、『ドカーン』と花火を上げたような音がしたかと思うと、小禄(おろく)飛行場の辺りの上に白い煙がポッカリと浮かんだ。

「ガジャンビラの高射砲よ」と久美が指で示した。

『ドカーン、ドカーン』と高射砲の音は続いて聞こえ、その度に白い煙が青空に浮かんだ。白い煙が浮かんでいる中を飛行機が気持ちよさそうに飛び回っていた。

「凄いねえ」と言いながら二人は南の空を見ていたが、「学校からのがよく見えるさあ」と校門の方へ駈け出した。

 校門を抜け、正面にある奉安殿(ほうあんでん)(天皇皇后両陛下の写真と教育勅語(ちょくご)を保管した建物)に敬礼を捧げ、音楽室に向かった。

 音楽室には晴美と澄江、小枝子と小百合、それに下級生が数人いて、キャーキャー騒ぎながら窓から空を眺めていた。

「ねえ、早く来て。今日の演習は凄いわよ」と晴美が手招きした。

 北の空からは次々に大編隊の飛行機が飛んで来た。

「もう数え切れないわ。百機以上も飛んでるのよ」と澄江が興奮して言い、

「ねえ、あれ実弾なんでしょ」と小枝子が高射砲から上がる煙を見ながら聞く。

「だって、演習に実弾なんか使わないんじゃないの」と小百合が言ったが、誰にもあれが実弾なのかどうかはわからなかった。

「ねえ見て」と晴美が那覇港の方を指さした。

 飛行機が次々に急降下を始めたと思ったら、飛行機の腹から爆弾が落ち、『ドカーン』と大きな爆発音が響き渡った。爆発音は幾つも響き、黒い煙が昇り始めた。

 皆、声を失って呆然と港の方を眺めていた。

「ねえ、あれが演習なの」と久美が千恵子の袖を引っ張った。

「演習じゃなかったら何なの」と千恵子は言った。もしかしたら、敵の攻撃なのかと思ったけど、それを口には出せなかった。そんな事があるはずはなかった。

 爆発音はますます激しくなり、高射砲も激しく打ち上げられた。皆、黙ったまま成り行きを眺めていた。千恵子は知らずに久美の手を握り締めていた。知らないうちに佳代と敏美も来ていて、ポカンとした顔で外を眺めていた。

 突然、けたたましく空襲警報のサイレンが鳴り響き、千恵子は驚いてビクッとした。

「敵機だあ」と晴美が大声で叫んだ。

 皆、慌てて窓を締め切って窓から離れた。荷物を背負い、防空頭巾をかぶったが、それからどうしたらいいのかわからず、皆、おろおろしている。防空演習や避難訓練は何度もやっているのに、実際に敵の攻撃に会うなんて思ってもいなかったので、どうしていいのかわからない。

「ねえ、防空壕に行った方がいいんじゃないの」と澄江が窓の方を眺めながら言った。上空を飛んでいる飛行機の振動が伝わるのか、窓ガラスがガタガタ震えていた。

「でも、楽器はどうするの。持って行かなくてもいいの」と晴美が言った。

「みんなが揃うまで待ってた方がいいんじゃないの」と小百合は言う。

 千恵子はガジャンビラの作業に行った松組の人たちは大丈夫だろうかと心配していた。四年生は松、竹、梅の三クラスあって、交替で作業に出ていた。今日は松組が奉仕作業で、竹組は校内作業、千恵子たち梅組が授業の日だった。校内作業は全校生徒が避難できる防空壕を掘ったり、食糧増産のため、校庭を耕して野菜を作ったりした。梅組のみんなも教室でおろおろしているのだろうと思ったが、まだ時間が早い事を思い出した。まだ七時頃だった。学校に来るのには早いし、ガジャンビラに行くのにも早かった。みんな、まだ家にいるのに違いないと安心した。

 どうしようかと話し合っていると与那覇(よなは)先生が来た。先生は落ち着いていて、皆、先生の顔を見たら一安心した。

「集まったのはこれだけか」と先生は聞き、下級生は防空壕へ避難し、四年生は校内を見回ってから防空壕へ行くようにと指示した。

 四年生八人は二人づつ四組に分かれて校内を見回った。千恵子は敏美と一緒だった。敏美は皆より一つ年上で、しっかりしているのでブラスバンド部の部長を務め、梅組の級長でもあり、みんなからは『分隊長』と呼ばれていた。具志頭村(ぐしかみそん)から汽車通学していて、今朝は早いので友達の家に泊まったのかもしれなかった。

 順番に教室を見て回ったが、まだ、誰も来ていなかった。夏休みの始まる頃から、つい最近まで、二高女は本土あるいは大陸から来た兵隊の仮宿舎として使われていた。皆、県内のあちこちに配属されて移って行ったので今は兵隊はいない。隣の松山国民学校は兵舎となって砲兵部隊が駐屯していた。

 玄関の所で与那覇先生が待っていた。

「先生、誰もいませんでした」と敏美が報告した。

「よし、早く行け」

 外に出ると物凄い爆発音と共に地響きもした。爆発音は絶え間なく続き、とても現実とは思えなかった。空を見上げると日差しを浴びて輝いている敵機が悠々と飛んでいる。港の方を見ると黒い煙がいくつも空高く広がっていた。千恵子は防空頭巾をしっかりとかぶり直し、敏美を追って防空壕まで走った。

 防空壕はまだ完成していなかった。穴を掘って板を乗せ、その上に土を被せただけの粗末な壕だった。警防団員の指導で、各家庭は勿論の事、隣組でも道路の脇に避難壕を掘り、学校や職場も全員が避難できるだけの防空壕を掘らなければならなかった。

 千恵子たちが入った後、小百合と久美が与那覇先生と一緒に入って来た。

 しばらく黙り込んで爆発の音を聞いていた皆も、穴の中に入って安心したのか、ちらほらと話し声が聞こえるようになった。

「ねえ、敵が攻撃してるのは飛行場とか軍艦とか、軍の施設だけよね」と隣にいた久美が小声で千恵子に聞いた。

「そうだと思うけど、敵は鬼畜米英(きちくべいえい)よ。何をするかわからないわ」

「そうよね。何をするかわからないわね。あたしたちのおうちも爆撃されるのかしら」

「えっ、そんな馬鹿な」

「だって、敵は鬼畜米英なのよ。何をするかわからないわ」

 千恵子は急に心配になって来た。家に爆弾が落ちたらどうなるんだろ。みんな吹っ飛んじゃって何もなくなってしまう。大事な物は防空壕の中にしまって置けばよかったと後悔した。

「なに心配してるのよ」と小百合が言った。「敵機なんか友軍が来てやっつけちゃうわよ」

「そうよ、そうよ」と皆が言って、

「今頃、敵の空母を撃沈してるかもしれないわね」と小枝子が言った。

「そうね、決まってるわ。皇軍(こうぐん)が鬼畜米英なんかやっつけちゃうわ」久美がうなづくと、晴美が歌い出した。

 轟沈(ごうちん)、轟沈、凱歌(がいか)が上がりゃ
    つもる苦労も苦労にゃならぬ〜 (轟沈 米山忠雄作詩、江口夜詩作曲)

 大声を出して合唱すると不安はすっかり吹き飛んだ。すると、千恵子は晴美に聞こうと思っていた事を思い出した。

「ねえ、晴美、一中の安里先輩って知ってる」

「安里先輩って、野球部の?」

「そう」

「知ってるけど、安里先輩がどうかしたの」

「弟が昨日、おうちに連れて来たのよ。ちょっと話したんだけど、あの人、東京の大学に行って文学の勉強するんだって」

「へえ、そうなの。確か、安里先輩のお父様って糸満(いとまん)の方で運送会社をやってるって聞いた事あったわ」

「運送会社の社長さんなんだ。おうちがお金持ちなのね」

「そうでしょ。東京の大学に行くんだから。それがどうかしたの。もしかして、チーコ、安里先輩が好きになったの」

「なに言ってんのよ。昨日、初めて会ったんだから」

「でも、気になるんでしょ」

「違うわよ。何となく」

「何となく気になるの」

「違うってば」と千恵子はむきになって否定した。

「チーコ、何が違うって」と久美と小百合がニヤニヤしながら聞いて来た。

「チーコがね、一中の安里先輩と昨日、お話したんだって。それで、一目惚れしたんだってさ」晴美が言うと、みんなでキャーキャー(はや)し立てた。

「安里先輩って誰よ」と澄江が聞き、晴美が説明する。

「えっ、あの安里先輩!」と小百合が目を丸くして驚き、皆で安里先輩の噂をあれこれ言っていると、

「ねえ、みんな、ちょっと静かにして」と分隊長の敏美が言った。

 皆、一斉に口をつぐんだ。

「急に静かになったわよ」

 耳を澄ますと爆発音は聞こえて来なかった。

 敏美が防空壕の入口に行き、恐る恐る顔を出した。

「どう」と聞きながら、千恵子も入口の方に行って外を見た。

 金城(きんじょう)先生と与那覇先生がガジュマルの木陰から空を見上げていた。港の方の空は真っ黒だが、あれほど飛び回っていた敵機の姿はどこにも見えなかった。金城先生と与那覇先生がうなづき合いながら防空壕に戻って来た。校長先生と何やら相談していたが、すぐに解散命令が出た。各自、自宅で待機するようにと言われ、皆、防空壕から出て体を伸ばすと空を見上げながら家が同じ方向にある者同士で固まって自宅へと急いだ。

「まったく脅かすわね」

「ほんとよ。朝っぱらから」

 千恵子たちはもう大丈夫だと思って安心して街に降りて行ったが、街の中は大騒ぎだった。手に手に荷物を持った人たちが逃げ惑っている。

「北へ逃げろ」とか「首里(しゅり)へ行け」とか怒鳴っている声が聞こえ、子供の名を呼んでいる母親の声や子供の泣き声も聞こえて来た。

「一体、どうなってるの」と不安になり、千恵子たちは一目散に自宅へと急いだ。

 家に帰るとハシゴが屋根に掛かっていた。不思議に思って屋根を見上げると弟の康栄(こうえい)がのんきそうに屋根の上に座って、港の方を眺めている。

「あんた、そんなとこで何してるのよ」

「ああ、チー姉ちゃん。あれ、見たかい。凄かったなあ」

「そんな事より、あんた、何でおうちにいるのよ」

「何でったって、飛行場に行こうとしたら、サイレンが鳴り出して、あの騒ぎだろ。おうちが危ないと思って帰って来たんさ」

「お父さんとお姉ちゃんは」

「ナチ姉ちゃんは俺が来た時、いなかった。病院に行ったんだろ。父さんはいて、チー姉ちゃんが帰って来たら『一緒に首里に行け』って言って県庁に行ったよ」

 康栄が屋根から降りて来た。

「これから首里に行くの」

「ああ、ナチ姉ちゃんも病院から首里に行く事になってんだとさ」

「だって、自宅で待機しろって言われてるのに」

「敵の空襲はまだ続くかもしれないんだぜ。警報が解除されたら戻って来ればいいじゃねえか。隣んちなんか、大騒ぎして荷車に荷物を積んで浦添(うらそえ)まで逃げて行ったぜ」

「そうなの」

「そうさ。チー姉ちゃんはのんびりすぎるぜ。さて、戸締まりして行こう」

「ちょっと待って、おばあちゃんちに行くんなら着替えくらい持って行かなくちゃ」

「何だ、泊まる気でいるのかよ」

「そうじゃないけど、一応ね」

 千恵子は家に上がると着替えの下着や寝巻(ねまき)をリュックに詰め、机の前に行って引き出しを開けた。何を持って行こうかと悩んだすえ、家族みんなが写っている写真を入れた。机の上に澄江から借りて、今、読んでいる『風と共に去りぬ』があった。続きを読みたいけど、持って行くには大きすぎた。文庫本にしようと本棚を眺めたが読みたい本もなかった。従妹の貞子がいつも歌をせがむのを思い出して愛唱歌集を入れた。

「行くぞ」と康栄が庭から声を掛けた。

 ふと柱時計を見るとまだ九時を少し過ぎた頃だった。思いがけない事ばかり起きたので、もうお昼頃だと思っていたのに、家を出てからまだ二時間半しか経っていなかった。

 康栄は昨日と同じように鉄カブトとリュックを背負い、スコップを担いで待っていた。

「今日は安里先輩と一緒じゃないの」と千恵子は何げなく聞いた。

「一緒だったけど、西本町の方に飛んで行ったよ。親戚のおうちがあるらしい。それで、俺も抜け出して帰って来たのさ」

「抜け出してって?」

「しばらく、みんなして明治橋の近くで待機してたのさ。どうせ、あの後すぐに解散になったと思うけどね」

「勝手な事ばかりしてると、いまに退学になっちゃうわよ」

「大丈夫さ。やる事はちゃんとやってるからね」

 しっかりと戸締まりをして家を出た。大通りに出ると荷物を持った人々が右往左往している。首里に向かう人たちもかなりいるとみえて、千恵子たちもその流れの中に入った。

 崇元寺(そうげんじ)の近くまで来た時、突然、ブーンという唸り声が聞こえて来て、空を見上げると敵機の大編隊が現れた。人々は悲鳴を揚げながら散って行き、木陰やら物陰に隠れた。千恵子と康栄も草むらの中に隠れて敵機の大軍を見上げた。二高女から見た時よりも敵機は低い所を飛んでいて、その爆音は物凄く、翼に書いてある星印がよく見えた。

「あれはグラマンだ」と康栄が叫んだ。

 千恵子も学校で敵機の見分け方を教わっていたが、日の丸と星の違いがわかる程度で、機種まではわからなかった。でも、実物をはっきり目にして、憎たらしいその姿を(まぶた)に焼き付けておこうと思った。

 敵機は途切れる事なく、次から次へとやって来て、港や飛行場の方へ飛んで行った。すぐに恐ろしい爆発音が響き渡り、地響きが伝わって来る。敵機は見事な急降下をして港や飛行場を次々に攻撃していた。『ドカーン、ドカーン』という爆撃音と共に黒い煙が立ち昇り、『ダ、ダ、ダッ』という機関銃の音も聞こえて来た。

 城岳(ぐすくだけ)とガジャンビラの高射砲の応戦も始まり、青空に白い花のような煙が花火のように上がった。次々に白い花は上がるが、なかなか命中しない。もし、命中したとしても、あれだけの敵機を全部、撃ち落とせるとは思えなかった。

「早く逃げろ」と誰かが叫んでいた。

 人々は恐る恐る道に戻ると、上空を飛び回っている敵機を見上げながら足を速めて首里へと向かった。子供が泣きながら道端に倒れていたが、誰も他人の事をかまっている余裕はなかった。早く安全な所に逃げるのに必死になっていた。

 安里の師範学校女子部と一高女の前を通った時、チラッと校庭を見たが人影はなかった。皆、どこかに避難したらしい。首里への坂道を登り、一中の近くまで来た時、天地を揺るがすような物凄い爆発音が鳴り響き、地面がグラッと揺れた。港の方を見ると真っ黒な煙がモクモクと空高く立ち昇っていた。

「町が燃えてるぞ」と誰かが叫んでいた。

 近所の人たちが屋根の上に登っていた。

「西新町だ」

「いや、あそこは西本町の方だ」と言い合っている。

 屋根の上からは火の手が見えるようだが、道からは煙しか見えなかった。千恵子たちは絶え間ない爆撃音を聞きながら、人々に押されるようにして首里城址へと続く道を進んで行った。




 母親の実家である首里の祖母の家は『三箇村(さんかそん)』と呼ばれていた崎山町にあり、古くからの造り酒屋だった。祖父は二年前に亡くなり、母親の兄、千恵子から見れば伯父が家を継いでいた。

 伯父には五人の子供がいて、一番上は千恵子の姉と同い年で師範学校の女子部本科二年の陽子、二番目は千恵子と同い年で首里高女に通っている幸子、三番目は一中一年の栄一、四番目は国民学校四年の栄二、五番目は国民学校二年の貞子だった。同い年の幸子とは幼い頃から仲よかったが、お互いに女学校に通うようになってからは会う機会も減って来た。今年は正月に会ったきりで夏休みも忙しくて遊びに来る事はできなかった。

 懐かしい祖母の家を見た途端に、空襲の事も忘れて幸子の顔が浮かんで来た。気がつくと爆撃の音は消えて、辺りは静かになっている。

「今度こそ本当に終わったようだ」と康栄が空を見渡しながら言った。

「ほんとに終わったの」と千恵子は聞いた。

「終わったさ。あれだけ爆弾を落とせば、敵だって気が済んだんじゃないのか。きっと、飛行場にあった戦闘機なんか、みんなやられちまったに違いない。敵の戦闘機ばかりで、味方の戦闘機なんか一機も飛んでなかったぜ」

「そうね。牛島閣下は何してたのかしら」

「敵の攻撃が急だったんで準備が間に合わないんだろ。午後になったら反撃に出るさ」

「反撃に出るったって、もう飛行機はないんでしょ」

「チー姉ちゃん、なに言ってるんだい。飛行場は小禄だけじゃないんだぜ。読谷山(よみたんざん)嘉手納(かでな)伊江(いえ)島、宮古や八重山にだってある。それに、今頃、無敵の連合艦隊が沖縄に向かってるはずさ。空母から零戦(れいせん)が次々に飛んで来るのさ」

「そうね。そうよね、きっと」

 千恵子は祖母に歓迎された。祖母の首里言葉(すいくとぅば)を聞くのも久し振りだった。国民学校は休みになり、栄二と貞子は家にいた。二人は防空頭巾をかぶって、庭の片隅にある防空壕から出て来て、千恵子の顔を見ると嬉しそうに飛びついて来た。

 敵がいなくなった今のうちにお昼の用意をしておこうと、千恵子は伯母さんを手伝っておにぎりを作った。十一時頃、一中に通っている栄一が帰って来て、しばらくしてから、首里高女に通っている幸子も帰って来た。陽子とも会いたかったが、師範学校は全寮制なので会えそうもなかった。

 千恵子は幸子に今朝、目にした出来事を興奮しながら話し、幸子も話してくれた。

 七時過ぎに首里でも空襲警報のサイレンが鳴って那覇港の方で煙が上がるのが見えた。大規模な演習が始まったのだろうと思い、幸子は学校に行った。

 首里高女は去年まで女子工芸学校と呼ばれ、(はた)織りや裁縫に力を入れている学校だった。今年の夏から学校自体が被服工場となり、生徒たちは毎日、軍服や軍用の蚊帳(かや)、兵隊の死装束(しにしょうぞく)まで作っていた。いつものように作業をしていると先生が来て、本物の空襲だと知らされ、生徒たちは全員、避難した。

 首里高女の校庭の下には生徒全員が避難できる大きな自然壕があり、幸子たちはしばらく、そこに避難していた。一時間位、壕の中で過ごし、十時半頃、空襲も終わったので作業再開かと思ったら、自宅で待機するようにと言われて帰って来たという。

「今日はきっと学校はお休みよ。チーちゃんとこもそうよ。久し振りなんだから今晩は泊まっていきなさいよ」幸子は嬉しそうにそう言った。

「そうね、そうしようかしら。首里から通ってる子もいるし。明日はその子と一緒に行けばいいんだわ」

「そうよ、佳代ちゃんでしょ。佳代ちゃんと一緒に行けばいいのよ」

 クラスは違うが、同じブラスバンド部の佳代は幸子の幼なじみだった。何度か遊びに行った事があるので家は知っている。明日の朝、佳代の家まで行って一緒に行こうと決めた。

 一時間以上も静かだったので、もう空襲は終わったと安心していたのに、正午前から三度目の攻撃が始まった。栄一を連れて屋根に上っていた康栄が、「敵の大編隊、上空を通過、間もなく那覇港に接近」と叫んだかと思うと、大きな爆発音が響き渡った。

 突然の爆発音に驚きはしたが、ここまで来れば安心という気持ちもあって、恐怖心よりも何が起こったのか知りたかった。千恵子は防空頭巾をかぶり、幸子と一緒にハシゴを登って屋根に上がった。屋根の上には伯父さんもいた。回りを見ると皆、屋根に上がって那覇の方を見ていた。

「何だ、お前らも来たのか。気をつけろよ」と伯父さんは言った。降りろと言わなかったのでホッとした。

 屋根の上から那覇の街が一望のもとに見渡せた。那覇港から小禄飛行場にかけては黒い煙に覆われている。西の方から無数の敵機が編隊を組んでやって来て、港の辺りで急降下している。絶え間なく爆音が響き渡り、まるで映画でも見ているようだった。

 千恵子はふと、いつか見た真珠湾攻撃の映画を思い出した。日本軍の奇襲攻撃にやられて真珠湾は黒い煙を上げ、敵の軍艦が沈むのを見て、大喜びして拍手したものだった。信じられない事に今、それと同じ事が那覇港で起こっていた。

「チーちゃんちはあの辺でしょ」と幸子が指さした。

 安里(あさと)川が二つに分かれ、一つは(とまり)港に流れ、もう一つは久茂地(くもじ)川となって那覇港の方に流れている。久茂地川の右側に二高女のある松尾山があり、千恵子の家は久茂地川の左側にあった。ここから見ると爆撃されている港から千恵子の家の辺りはすぐ側に見えた。

「大丈夫かしら」と幸子は心配そうな顔をした。

 港から千恵子の家まで一キロは離れている。大丈夫だとは思うが、次々に爆弾を落としている敵の攻撃を見ると安全とは言い切れなかった。

「あっ、灯台の近くにいた軍艦に当たったぞ」と康栄が叫んだ。

 ぼんやりと松尾山を見ていた千恵子は灯台の方に目を移したがよく見えなかった。桟橋の辺りは燃えているのか少し違う色の煙が立ち昇っている。ガジャンビラの高射砲も城岳(ぐすくだけ)の高射砲も天久(あめく)の高射砲もすでにやられてしまったのか反撃していなかった。突然、耳をつんざく大爆発が起こった。灯台の近くに真っ黒な煙が空高く昇り、軍艦が沈んで行くのが小さく見えた。

「物凄いな。弾薬でも積んであったんじゃないのか」と伯父さんが言った。

 軍艦の沈没の後、辻町の辺りも火災が起きたのか煙が立ち昇っていた。

「いつまで続くの」と幸子が小声で言った。「信じられない。沖縄が攻撃されるなんて」

 千恵子は幸子の手を取った。幸子は震えていた。

 警防団員の人が回って来て、屋根を見上げて避難するようにと声を掛けて来た。伯父さんにも言われて、千恵子と幸子は屋根から降りた。二人は救急袋と荷物を抱えて、祖母と幸子の母親、栄二と貞子が避難している防空壕に隠れた。

 三度目の空襲は十二時半頃終わったが、またすぐに四度目の空襲が始まった。気のせいか爆発音がだんだんと近づいて来るような気がする。穴の中にいるより屋根の上から見ていた方がよかったと思った。でも、幸子はおびえて千恵子にしがみついていた。栄二と貞子はかくれんぼでもしているような気で騒いでいる。伯母がおにぎりを勧めたけど、千恵子も幸子も食欲はなかった。リュックの中に弁当があるのを思い出し、食べられそうもなかったので栄二と貞子にあげた。二人は喜んで食べてくれた。

 友軍が来て敵の空母を沈めてしまえば敵機も逃げて行くはずなのに、上空を飛び回っている敵機の爆音は途切れる事なく延々と続いた。

 二時近くになって、やっと静かになった。千恵子は防空壕から出て、屋根の上を見上げた。康栄と栄一と伯父さんは屋根の上に座り込み、ポカンとした顔で那覇の方を見ていた。庭からだと黒い煙が見えるだけでよく見えない。黒い空の中、血のような色をした太陽が浮かんでいた。千恵子はハシゴを登った。

「ひでえよ」と康栄が顔を歪めた。

 千恵子は康栄の隣に座り込むと恐る恐る那覇の方を見た。

 松尾山からも煙が立ち昇っていた。二高女だか国民学校だか病院だかわからないが、どこかに爆弾が落ちたようだった。病院にいる姉は大丈夫なのか心配になった。千恵子の家のある久茂地(くもじ)町は無事のようだけど、港の近くの通堂(とんどう)町、西新町、西本町、東町、上之蔵(うえのくら)町、(つじ)町、そして、対岸の垣花(かきのはな)町辺りは燃えているようだった。それに、高射砲陣地のある城岳の辺りも煙を上げている。城岳の近くには二中があり、父のいる県庁も近くだった。

「四回目から那覇の街を攻撃し始めたんだ」と康栄は言った。「畜生、友軍の姿なんか全然見えねえ。今度、敵が来たら那覇は全滅になるぞ」

「そんな‥‥‥」

「だって見ろよ。敵は焼夷弾(しょういだん)て奴をばらまいてんだぜ。風も出て来たし次々に燃えちゃうよ」

 千恵子は家に残して来た服やまだ新しい革靴、祖父が大事にしている三線(さんしん)、祖母が大事にしている銀のジーファー((かんざし))、父が大事にしている写真機、母が大事にしている上等な着物、その他様々な物を思い浮かべた。それらが皆、燃えてしまうなんて考えたくもなかった。空を見上げ、大雨でも降ってくれればいいと願った。しかし、首里の上空は那覇の上とはまったく違って青空が広がっていた。

 警防団員の人が来て、那覇から大勢の避難民が首里に押し寄せて来たと知らせた。彼らの避難場所を手配しなければならないので手伝ってくれと頼まれ、伯父さんは康栄と栄一を連れて、どこかに行ってしまった。千恵子は一人、屋根の上に取り残され、燃える那覇の街を呆然と眺めていた。

 燃えている辺りに友達の家があった。みんな、無事に逃げただろうか。住む家をなくしたら学校にも来られなくなってしまうのではないだろうか。あともう少しで卒業できるというのに可哀想だった。どうして、こんな目に会わなけりゃならないの。那覇の人たちが一体、何をしたっていうの。どうして、こんなひどい事をするのよ。

 どれくらい時間が経っただろう。西の方からブーンという恐ろしい響きがまた聞こえて来た。見上げると敵の大編隊が我が物顔で飛んでいる。さえぎる者もなく余裕しゃくしゃくで那覇の上空まで来て爆弾を次々に落とし始めた。港や飛行場は壊滅してしまったのか、そちらに行く気配はなく、那覇の街を無差別に攻撃していた。松尾山も攻撃されて煙が上がった。崇元寺や壷屋(つぼや)の辺りも攻撃されている。少しづつ首里の方に近づいて来るような気がして、千恵子は慌てて屋根から降りて防空壕に駈け込んだ。

 五度目の空襲は一時間位続いた。四時頃、皆が止めるのも聞かず、防空壕から飛び出して屋根に上がってみた。そこからの眺めは悪夢だった。自分の家だけは大丈夫だと信じていたのに、それは(はかな)い夢と消え果ててしまった。

 那覇の街は火の海になり、辺り一面、物凄い煙を吐いていた。久茂地町も松尾山も市役所や山形屋デパートも郵便局も那覇駅も県庁も皆、火の海の中にあった。

 燃えている那覇の街を見ているうちに涙が知らずに流れて来た。千恵子は屋根の上に座り込んだまま泣き続けた。

「畜生、みんな燃えちまったな」

 声がしたので顔を上げると、康栄がハシゴから顔を出して、千恵子の側に来て座った。

「あたしたちこれからどうなるの」

「わからねえよ、そんな事‥‥‥まさか、こんな事になるなんて‥‥‥友軍は何してたんだよ。敵の大軍が近づいて来るのにまったく気づかねえなんて‥‥‥そんなの信じられねえよ」

「お父さんとお姉ちゃん、大丈夫かしら」

「わからない‥‥‥」

「あたしたち二人っきりになっちゃったの」

「そんな事、言うなよ。そんな事、まだわからねえじゃねえか」

 康栄は怒っているような顔して、声をあらげて言った。縁起(えんぎ)でもない事を言ってしまったと千恵子は後悔した。

「ごめんなさい。ねえ、那覇から避難して来た人はいっぱいいるの」

「いっぱいなんてもんじゃねえよ。とりあえず、お城や学校の校庭に避難してるけど、何千人、いや、何万人もいるかもしれねえ。まだ続々とやって来るんだ。これから炊き出しをするんで、手のあいている者は皆、連れて来いって言われて帰って来たんだよ」

「あたしも行くの」

「当然だろ。首里に知り合いのいる者はいいけど、いない者たちは校庭で野宿しなけりゃならねえんだぜ。毛布とかもかき集めなけりゃならねえ。大変だよ」

 家を失って悲しんでいる暇なんてなかった。千恵子は幸子と一緒に首里高女に行き、避難民たちの炊き出しを手伝った。康栄の言う通り、避難民は暗くなってからも続々とやって来た。

 夜中に艦砲(かんぽう)射撃が始まって敵が上陸するとの噂が流れ、皆、慌てて逃げて来たようだった。人々の話によると火の勢いが強すぎて、何度も訓練したバケツリレーによる消火活動など何の役にも立たず、我が家が燃えて行くのを呆然と見ているしかなかったという。家庭で掘った防空壕も、隣組で協力して掘った防空壕も、空から落ちて来る爆弾にはまったくと言っていい程、効果はなく、かえってお墓(沖縄独特の亀甲墓)の方が安全だった。そして、爆弾にやられて手足がもげたり、頭が吹き飛んでいたり、見るも無残な姿で死んでいる人も何人かいたという。

 千恵子たちは休む間もない程忙しく、おにぎりを作り続けた。作っても作っても、すぐになくなってしまう。まるで、波上祭(なみのえまつり)のような人込みだが、人々の顔は不安と絶望に満ちていた。

 父と姉は無事だろうか。友達もみんな、無事に逃げただろうか。胸に攻め寄せて来る大きな不安を追い払うかのように千恵子は働き続けた。今日一日の出来事がまるで嘘だったかのように、夜空には丸くなりかかった月がぼんやりと浮かんでいた。

 九時近く、どっと疲れて祖母の家に帰ると姉が待っていた。

「お姉ちゃん、無事だったのね」

 姉の顔を見たら急に悲しみが込み上げて来て、千恵子は姉に飛びつくと大声で泣き出した。

「ひどい事になったわねえ」と姉は言いながら千恵子を抱き締めた。

 何か言おうと思っても涙が止まらず、言葉にはならなかった。

「お父さんも無事で、さっきここに来たのよ。今、伯父さんと一緒に避難している人たちの所に行ったわ」

「よかった‥‥‥みんな、無事だったのね」

「そうよ、みんな、無事よ。しっかりしなさいよ。幸ちゃんに笑われるわよ」

 千恵子は涙を拭きながら振り返った。幸子が疲れ切った顔してこっちを見ていた。子供みたいに泣いたのが恥ずかしくなって、照れ笑いしようと思ったけど、うまく笑えなかった。

「病院も焼けちゃったわ」と姉は言った。「逃げ遅れた患者さんも何人か亡くなってしまったわ。何とか防空壕に避難させようとしたんだけど、全員を避難させる事はできなかったの。病院が焼け落ちちゃって、器材もみんな焼けちゃった。せっかく避難しても、あんな穴の中じゃ、治療もろくにできないし、これから一体どうなっちゃうんだろ」

「二高女は無事なの」と千恵子は聞いた。

 姉は首を振った。

「二時頃だったかな、二高女の前の四つ角に爆弾が落ちたのよ。それが最初だったわ。あたしは見てないけど、爆弾にやられて十人ぐらいの死体があったらしいわ。怪我した人が何人か運び込まれて来たけど、病院も避難しなけりゃならないから、てんやわんやの大騒ぎだったわ。病院がやられたのは三時過ぎ頃よ。病院の前の連隊区司令部もやられて、あの辺り一帯が火の海になったの。火の勢いが強すぎて、とても消す事なんかできなかった。その火が国民学校の校舎に回って、校庭に山積みにしてあった砲弾が大爆発したのよ。物凄い爆発だったわ。防空壕も揺れて、生き埋めになっちゃうかと思ったくらいよ。その爆発で隣の二高女もやられちゃったんだと思うわ」

「そうだったの‥‥‥楽器もみんな燃えちゃったのね」

「残念だけどね」

「もう部活もできないのね‥‥‥ねえ、あたしたちのおうちは」

「それはわからないわ。近づく事ができないのよ。火が消えるまでは近づけないでしょうね。でも、県庁は無事だったらしいから、もしかしたら大丈夫かもしれないわ」

「えっ、県庁が無事だったの」

 千恵子は信じられないという顔をして姉に聞き直した。

「お父さんが無事だったって言ってたわ。隣の警察署は焼けちゃったらしいけど、県庁は焼けなかったって。それに、高射砲陣地のあった城岳の隣の二中も焼けちゃったらしいわ」

「そう。二中も焼けちゃったの」

「二中も開南中学も焼けちゃったみたい。両方とも陸軍病院が使ってたんだけど、南風原(はえばる)の方に避難したらしいってお父さんが言ってたわ」

「浩おばちゃんは無事なの」

「わからない。でも、大勢の兵隊さんが一緒だから無事だと思うわ」

「そうね。浩おばちゃんの事だもの、絶対に大丈夫よ」千恵子は自分に言い聞かせるように言った。

「ナッちゃん、お姉ちゃんの師範女子は大丈夫なの」と幸子が心配顔で聞いた。

 師範学校の女子部と一高女は同じ敷地内にあり、首里と那覇のほぼ中間の真和志(まわし)村の安里にあった。那覇から避難して来た人たちから無事だと聞いていても、幸子がもう一度、確認したい気持ちは千恵子にもよくわかった。

「ここに来る途中、前を通って来たけど無事だったわよ。火の手もあの辺りまでは来ていないから大丈夫よ」

 幸子も千恵子も安心したようにホッと溜め息を漏らした。






県立第二高等女学校跡


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