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ここは森の中。 ラーラの仲間たち、人間たちは妖精と呼んでいるが、彼女たちが薄い着物をなびかせながら踊っている。 フェラという名の風の精は竪琴を弾いている。横笛を持ったローダという名の木の精が近づいて来る。 「ラーラはどこ行ったの?」とローダが聞いた。 「さっき、人間と一緒にいたよ」とフェラは答えた。 「また、人間と?」 「うん。また人間をだましてるんだよ」 「もの好きね。ねえ、フェラ、戦争でも見に行かない?」 「戦争? 人間たちの戦争?」 「そうよ。また、始まったのよ」 「この前も、あんたと一緒に行ったけど、つまらなかったわ」 「あれはもう、ずっと昔じゃない。今の戦争はあの頃と全然、違うのよ。弓矢や刀なんかで戦わないの。戦うのはみんな機械よ。人間はただ、ボタンを押してるだけなの」 「そんなんじゃ、余計、つまらないじゃない」 「それが面白いのよ。ただ、ボタンを押しただけで、街なんか跡形もなくなっちゃうのよ。その街に住んでいる人間なんて、何も知らないうちに、みんな死んじゃうわ。人間が苦労して建てたビルも車も電車も、みんな消えちゃうのよ」 「嘘! そんな事、できるわけないよ」 「ほんとよ。ほんのまばたきをしてるうちに、何もなくなっちゃうの。ほら、ずっと昔、まだ陸地ができたばかりの時があったでしょ。あの時みたいになっちゃうの」 「まさか?」 「ほんとだってば、行ってみればわかるわ」 ユーナという水の精が二人の話に割り込んで来る。 「何の話、してんの?」 「戦争の話。人間たちの戦争よ」 「何だ、つまんない」とユーナは踊りながら去って行った。 「ねえ」とフェラはローダに言う。「さっきの話、本当なの? みんな消えちゃうって」 「ほんとなのよ。あたしだって見るまでは、とても信じられなかったんだから」 「そう、ほんとなの‥‥‥ねえ、それじゃあ、あたしたちで、そのボタン、みんな押しちゃおうよ」 「あたしもそう思ってたの。人間なんて、みんな死ぬといいんだわ」 「そうよ。昔はよかったわ。あたしたちは好きな所にいられたわ。今はこんな山奥に隠れてなくちゃならない」 「そうよ。また昔のようにしましょう。地球ももうすぐ死んじゃうけど、最期くらい、あたしたちの自由な世界を作りましょう」 「でも、人間ていうのは馬鹿な事ばかりしてるのね。地球の命だって、もうあまりないんだから、ほっといても人間なんて滅びるのに、何も自分たちで自分たちを滅ぼす事もないのに‥‥‥まったく、どうしようもない馬鹿ね」 「人間ていうのは何でも自分たちでやらなけりゃ気がすまないのよ。ちっぽけなくせに王様きどりでいたいのよ」 「でも、可愛い所もあるのよ」 「フェラ、あんた、最近、ラーラに影響されてんじゃないの?」 「そんな事ないよ。あたしも初めの頃は面白くて、人間をからかってたけど、もう飽きちゃった。ラーラはよく飽きもせずに続けられるわ。感心するよ」 「ラーラなんか置いて行きましょ」 「うん、面白そうね」 フェラとローダ、消える。 楽しそうに踊っている妖精たち。
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