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ここは雲の上。 綿のような雲、ガラスのような雲、氷のような雲、虹色の雲などが一面をおおっている。 ラーラと昭雄が仲良く散歩している。 「凄いな‥‥‥」と昭雄は実感を込めて言った。 「自然が作り出した美よ」とラーラは言った。「でも、作ろうとしてできたものじゃないわ。自然にできたものよ。自然だけが美というものを作り出す事ができるの。人間の心が自然と一体化した時に初めて美が生まれるのよ」 回りの景色を感激しながら見て歩く昭雄。雲が切れて、大きな穴があいているのも知らずに歩いている。 昭雄はふと下を見る。地球が見える。こんな所に立っていていいのだろうかと思う。昭雄は落ちる。かろうじて、雲につかまって、穴にぶら下がる。 「助けて!」 ラーラ、昭雄の所に行き、手を引っ張ってやる。 「ああ、危なかった」 「馬鹿ね。今のあなたは魂だけなのよ。空中だって歩けるわ。落ちると思うから落ちちゃうのよ」 ラーラ、穴の上を平気で歩いてみせる。 「ほら、落ちないじゃない」 昭雄、恐る恐る穴の上に右足を出してみる。 「大丈夫よ」 昭雄、左足も空中に出す。 穴の上に立っているラーラと昭雄。 「ほんとだ、すげえや」 「面白い」と言って、昭雄はいい気になって空中を歩き回る。 地上の広々とした荒野に原始時代の男が現れる。弓を背中に背負い、腰に革を巻き付け、石の斧を持っている。 「あっ、人間だ!」昭雄が気づいてラーラに言った。 「あなたの先祖ね」とラーラは男を見ながら言った。 男は疲れきった様子で荒野をさまよい歩いている。男の名前はヤマツミという。後に山の神となった。 「あの男は何してるんだ?」 「あの男は女を捜してるの」 「女? 女に逃げられたのか?」 「あんたじゃあるまいし」 「何だと?」 「夕子って娘、どうなったの?」 「うるせえ。そんなのどうだっていいだろ。今はあの男の話だよ」 「彼はね、その女を一度しか見た事がないのよ。ある時、狩りをしていたら偶然に会ったのよ。でも、その女にはもう男がいたの。それで彼は一度は諦めたんだけど、どうしても諦めきれなくて捜し始めたのよ」 「へえ、一目惚れってわけか」 さまよい歩くヤマツミを見下ろしているラーラと昭雄。
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弓を杖代わりにして荒野を歩いているヤマツミ。恨めしそうに太陽を睨む。
草むらの中に小川が流れている。 ヤマツミが今にも倒れそうな足取りでやって来て、川の前にひざまづくと、頭ごと水の中に突っ込んで水を飲む。 しばらく、川のほとりで横になっている。
夕陽を浴びながら、魚を生のまま、かじっているヤマツミ。
広い草原の中、旅を続けているヤマツミ。
丘の上に立ち、回りを見回しているヤマツミ。
森の中、小川で水を飲んでいる親子の鹿。 親鹿を弓矢で狙っているヤマツミ。 矢が親鹿の胸に刺さる。逃げる親子の鹿。 後を追うヤマツミ。血の跡を追いかける。 倒れている親鹿。 親鹿から矢を抜こうとしている女がいる。女の名前はカヤノという。後に野の神となった。 ヤマツミはカヤノに近づく。 振り向くカヤノ。 「アアアアアア」とヤマツミはカヤノに声を掛ける。 カヤノ、目を見開いて、ヤマツミを見つめる。 互いに見つめ合っているヤマツミとカヤノ。 「ウウウウウウ」とヤマツミはカヤノに言う。 カヤノは強く首を横に振り、その場から逃げる。 ヤマツミ、カヤノの後を追う。 逃げるカヤノ。 追いかけるヤマツミ。
カヤノは逃げて来て、小川のそばにある洞穴の中に入って行く。 ヤマツミは追いかけて来て、洞穴の前に立つ。 洞穴からカヤノが男に寄り添いながら出て来る。その男の名前をキタカという。後に神になれずに死んでしまった。 キタカはヤマツミに帰れと手で合図をする。 ヤマツミは首を横に振り、右手に持った石斧を突き出す。 キタカはカヤノの顔を見つめる。 カヤノは静かに首を振る。 キタカ、カヤノから離れて、石の斧を構え、ヤマツミと向かい合って立つ。 二人の男を見守るカヤノ。 ヤマツミ、斧を振り上げ、キタカに飛び掛かる。 傷だらけになって戦うヤマツミとキタカ。 戦う男たちを静かに見つめているカヤノ。 勝負はなかなかつかない。 ようやく、ヤマツミがキタカの頭に斧を振り下ろす。 キタカは死ぬ。 ヤマツミ、立ち上がって、カヤノの方に行く。 カヤノもヤマツミの方に近づいて来る。 見つめ合うヤマツミとカヤノ。 ヤマツミ、カヤノを抱きしめる。 カヤノ、ヤマツミの傷口を優しくなめる。 寄り添いながら洞穴に入って行くヤマツミとカヤノ。 頭を割られて死んでいるキタカ。 ハゲタカが空で騒いでいる。
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雲の上に腹ばいになって、地上を見下ろしている昭雄。 隣でラーラは酒を飲みながら、雲をちぎっては丸めて、地上に投げて遊んでいる。 昭雄、何かを言おうとしてラーラを見るが何も言わない。 互いに見つめ合うラーラと昭雄。 ラーラは優しく微笑する。 うなづく昭雄。 上を見上げれば降るような星。 西の空には三日月。 寄り添いながら楽しそうにデートを楽しむラーラと昭雄。
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