30
山の朝。 小鳥たちのさえずり。 山の小道を子犬を連れて散歩している麗子。 子犬が急に草むらの方へ走り出す。 「どこ行くの? 待って!」 麗子は子犬の後を追って行く。 子犬は倒れている昭雄の側まで走って来て、キャンキャンと鳴く。 麗子、走って来て昭雄を見る。 「誰かしら? どうしたのかしら?」 麗子、昭雄を揺り起こす。 「大丈夫ですか? しっかりして下さい」 昭雄、目を開ける。 「山の精‥‥‥」 「えっ?」 昭雄は目を覚まして麗子を見る。 「あなたは人間ですか?」 「えっ? 人間ですけど‥‥‥」 「僕はどうして、こんな所にいるんでしょう?」 「倒れていましたよ」 「何か、変な夢を見ていたような気がする」 「さっき、山の精って言ってましたけど」 「あなたによく似た人が夢に出て来たようだけど‥‥‥よく覚えてない」 「大丈夫ですか?」 「ええ、大丈夫です」 「わたしの家、すぐ近くですから休んでいきません?」 「ええ、どうも‥‥‥」 昭雄、立ち上がる。ちょっとフラつく。 「本当に大丈夫ですか?」 「頭がガンガンするんですよ‥‥‥でも、大丈夫です」 「うちで少し休むといいわ」 「どうもすみません」 麗子は子犬を抱いて歩いて行く。昭雄はついて行く。 |
31
広い農家の一室で、昭雄は布団の中で寝ている。 額の上に濡れた手拭いが載せてある。 そばに座って昭雄を見守っている麗子。 目を覚ます昭雄。 「目が覚めました?」 「ええ」 「頭の具合はどうですか?」 「ええ、もうすっかり治ったみたいです」 「よかったですね」 「迷惑かけて、どうもすみません」 「いいえ、あの、おなか、すいてません?」 「ええ、実はすいてるみたいです」 「用意してきます」 「あの、僕は石山昭雄といいます。あなたは?」 「砂川麗子です」 「麗子さんですか‥‥‥」 昭雄はどこかで聞いた事のある名前だと思うが、はっきり思い出せない。 麗子は出て行く。 |
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