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食卓を囲んで食事をしている昭雄、麗子、麗子の父、母、そして、祖母。 「石山さんは絵画きさんなんですってね」と母親が言った。 「いえ、まだ、勉強中ですよ」 「この山を描きに来たんですって」と麗子が言う。 「それじゃあ、うちに泊まったらいいよ。今、どこかに宿をとってるんでしょ?」と祖母が聞いた。 「ええ、月見村の旅館に泊まっています」 「そう。うちにいらっしゃいな」 「お酒、飲めるんでしょう?」と父親が言う。 「ええ」 「このうちは女ばかりでね。いつも独りでやってるんですよ」 「うちはお客さんがあまりないもんですからね、もう大歓迎ですよ。ぜひ、うちに来て下さい」と母親は勧めた。 「ええ、ありがとうございます」
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昭雄は小川のある風景を描いている。 そばで子犬と遊んでいる麗子。 昭雄の絵には小川の向こう側の石の上に人影のようなものが二つ描かれてある。しかし、別に暗い感じの絵ではない。 昭雄の絵を覗き込む麗子。 「なあに、これ?」 「わからない。この風景を見てたら、何となく、こんな風に感じたんだ」 「何だか、人の影みたいね。二人いるわ」 「うん」 「そういえば思い出したけど、わたしのお爺ちゃん、この山で自殺したらしいの」 「自殺? 何で?」 「会社がつぶれて責任が取れなくなったからみたい。もう、ずっと昔の事だけど」 「へえ、そんな事があったの」 「うん。わたしはまだ生まれてなかったから知らないけどね」 「そろそろ帰ろうか?」 「ええ」 昭雄は絵の道具を片付ける。 昭雄と麗子、寄り添いながら帰る。 二人の回りを走り回る子犬。 二人、見えなくなる。 まだ、明るい空に、ぼんやりと三日月が見える。
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