3
五郎右衛門は木剣を振っていた。
新陰流、猿飛之太刀
五郎右衛門は『
座禅‥‥‥
そして、 腰を落とし、刀を抜いては気合をかけ、空を水平に切り、素早く それを何度も繰り返している。
座禅‥‥‥
次は立ち木を相手に木剣を振り始める。気合を入れて、思い切り、立ち木を叩いている。 木剣が木を打つ音と五郎右衛門の掛け声が山の中に響き渡る。
|
4
岩屋の中、焚き火の光の中で、五郎右衛門は小刀で木を彫っている。 観音像である。彼の剣に似て、切口が鋭い。 五郎右衛門がこの山に来て、すでに七日が経っていた。昼は一日中、剣を振り、夜はこの観音像を彫っていた。 最後に目を彫り入れると観音像は完成した。その顔はどことなく悲しい顔をしていた。 五郎右衛門は彫り上げた観音像を石の上に置き、しばらく見つめてから、足を組み直して目を閉じた。
|
目次に戻る 次の章に進む |