沖縄の酔雲庵


尚巴志伝

井野酔雲







上間按司




 久高島(くだかじま)からの帰りに、サハチ(島添大里按司)たちは何者かに襲われた。

 小舟(さぶに)から下りて、須久名森(すくなむい)を左に見ながら山裾を歩いている時だった。突然、山の中から浪人のようなサムレーが現れて、サハチたちを囲んだ。前に四人、後ろに四人いた。

「何者だ?」とサハチが静かな声で聞くと、

「お前は島添大里按司(しましいうふざとぅあじ)だな」と右頬に傷のある人相の悪い浪人が言った。

 サハチは楽しそうに笑った。

「俺も有名になったものだな。こんな格好(なり)をしていてもわかるとは大したもんだ」

「笑っていられるのも今のうちだけだ。命をもらうぞ」

「誰に頼まれた?」

 それには答えず、浪人たちは一斉に刀を抜いた。

 ウミトゥク(思徳)は恐怖で体が固まってしまったかのように動けなかった。クルー(九郎)がウミトゥクを庇うようにして棒を構えた。浪人たちの刀がきらめいた時、ウミトゥクは恐ろしくて目をつぶった。悲鳴とうめき声と人が倒れる音がした。ウミトゥクが恐る恐る目を開けると、浪人たちは皆、倒れていた。

「大丈夫か」とクルーが言った。

 ウミトゥクは震えながら、うなづいた。

 山の中からまた男たちが六人出て来た。

「ヤキチか。御苦労」とサハチが言った。

「お父さん!」とキクが驚いていた。

「こんな所で何をしているの?」

「ヤキチは常に俺を守っていてくれているんだよ」とサハチが言うと、照れたようにヤキチは頭をかいた。

「誰の仕業かわかるか」とサハチがヤキチ(奥間大親)に聞いた。

糸数(いちかじ)にいる浪人者でございます。糸数按司に(じに)で雇われたのでしょう」

「糸数按司が俺の命を狙っていたのか‥‥‥」

「そのようです。しかし、按司様(あじぬめー)の実力を知らなかったようで‥‥‥飛び道具を使うようなら手伝おうと思いましたが、必要ないと思い、見物させていただきました」

「すまんな」

 ヤキチはうなづくと配下の者たちを連れて、山の中に消えた。

「お父さんがお兄様を守っていたなんて知りませんでした」とキクは驚いた顔のまま言った。

「もう重臣になったのだから、若い者に任せて、付いて来なくてもいいと言っているんだがな、まだ、若い者には負けられんと頑固なんだよ」

「お父さんはずっと、お兄様を守っていたのですか」

「そのために、佐敷に来たらしい」

「そうだったのですか」

「こいつら、殺しますか」とマサンルー(佐敷大親)がサハチに聞いた。

「いや。これに懲りて、二度と襲わないだろう」

 サハチたちは気絶している浪人たちを山の中に放り込んで、佐敷へと向かった。

 ウミトゥクがあとでクルーに聞いたら、あっと言う間に浪人たちは皆、倒れたという。前の四人はマチルギが倒し、後ろの四人はサハチが倒した。マサンルーもクルーも出る幕はなかったという。兄貴と姉さんの強さは聞いていたけど、実際に目にして、予想以上の強さだ。俺も負けずに稽古に励まなくてはならないとクルーは言った。体がすくんでしまった事を恥じて、ウミトゥクは以前にも増して剣術の稽古に励んだ。そして、自分もお姉様(マチルギ)のようになりたいと本心から思っていた。

 サハチたちが旅から帰って来た頃、浮島(那覇)に中山王(ちゅうざんおう)(武寧)が送った進貢船(しんくんしん)が帰って来た。久し振りに、使者たちは応天府(おうてんふ)(南京)まで行き、新しい皇帝(永楽帝)に拝謁(はいえつ)してお祝いを述べ、貢ぎ物を捧げた。お返しの賜わり物は予想を遥かに超えた素晴らしい品々だったという。永楽帝(えいらくてい)の御威光か、去年までのように、密貿易船が来る事はなかった。

 五月の末にウニタキ(三星大親)に呼ばれて、『まるずや』に行くと、ウニタキは裏の屋敷の縁側で昼寝をしていた。

「『三弦(サンシェン)』はどうした?」と聞きながら、サハチは縁側に座った。

「ミヨンに取られちまったよ」とウニタキは言って、起き上がった。

「たまには、かみさん孝行をしようと思ってな。次女のマチ(松)も生まれたばかりだし、しばらく城下の屋敷にいて、ミヨンに三弦を教えてやったんだ。そしたら、すっかり気に入ってしまってな、離そうとしないんだよ」

「なんだ、屋敷に帰っていたのか」

「グスクに顔を出そうとも思ったんだが、特に用もないし、帰って来た時に、お前は留守だったからな。行くのはやめた」

 サハチはニヤニヤして、「久高島にも、お前の娘がいたぞ」と言った。

「やはり、娘が生まれたのか」とウニタキは上体を起こしてサハチを見た。

「どうして、ヌルの子はみんな、娘なんだ。馬天ヌルも、佐敷ヌルも、フカマヌルも娘を産んでいる」

「俺もその事を不思議に思っている。男が生まれたら、どうするつもりだったのだろう」

「フカマヌルは男が生まれるなんて考えもしなかっただろう。女の子が生まれると決めつけていた。フカマヌルに母親の名前を聞かれたんだ。でも、母親の名前を付けたら、長女と同じ名前になってしまうぞと言ったら、『ウニチル(鬼鶴)』と名付けると言っていた」

「可愛い娘だ。会いに行ってやれ」

「そうだな。でも、少し怖いんだ。フカマヌルに会ったら、また骨抜きにされてしまうかもしれん」

「だから、女子(いなぐ)は可愛いんだろう」

「そうなんだが、俺が、朝鮮(チョソン)で亡くなった山南王(さんなんおう)(二代目承察度)と同じ目に遭うとは思わなかった。山南王と同じように、何もかも捨てても、フカマヌルと一緒にいたいと本気で思っていたんだ」

「お前にとって、フカマヌルは絶世の美女だったんだよ」

「そうかもしれんな。ところで、佐敷ヌルの相手は一体、誰なんだ?」

「シンゴ(早田新五郎)だよ」

「なに、奴だったのか‥‥‥うまい事やりやがったな」

「おい。その口ぶりからすると、お前もマシュー(佐敷ヌル)を狙っていたのか」

 ウニタキは笑った。

「いい女だからな。しかし、佐敷ヌルは男なんかまったく興味ないといった感じで、近寄りがたかったよ」

「俺はマシューが妊娠したと聞いて、お前を疑ったんだ」

「馬鹿を言うな。お前の妹を二人も相手にできるか。しかも、二人ともヌルだ。俺は二人に殺されてしまうよ」

 サハチはウニタキの顔を見て笑った。本当にそう思っているようだった。

浦添(うらしい)にいる望月党の女はどうなったんだ?」とサハチは聞いた。

「大分、よくなっている。まだ、痛みはあるようだが、やっと起きられるようになって、飯も食えるようになった」

「何かしゃべったか」

「いや。お礼を言うだけで、何も言わないらしい。ただ、年齢(とし)は俺たちと同じくらいなんだが、謎めいた美女だ」

「また、美女が現れたのか。惑わされるなよ」

「何を言うか。俺は大丈夫だが、イブキ(伊吹)がいい年をして、惑わされそうだ」

「イブキがか。信じられん」

「ずっと、独り身だからな。家族を殺されて、琉球に来たんだ」

「そうか、イブキは独り身だったのか」

「もしかしたら、亡くなったかみさんと似ていたので助けたのかもしれん」

「それにしても、望月党の女が一体、誰に斬られたのだろう」

「それが謎なんだ。誰かのあとでも付けて、見つかって殺されたのか。一体、望月党が浦添で何を調べていたのか、まったく、わからん」

「そうか‥‥‥話は変わるが、旅の帰りに浪人者に襲われた。ヤキチが調べた所によると糸数の浪人者らしい」

「糸数按司がお前を狙ったのか。お前を殺して、島添大里グスクを奪うつもりなのかな‥‥‥糸数按司だが、今、屋敷の改築をしている。どうやら、島添大里のような二階建ての屋敷を建てるようだ。人足(にんそく)を集めていたんで、配下の者を入れておいた」

「そうか。余程、島添大里グスクが欲しいんだな」

「それと、近いうちに明国(みんこく)(中国)から使者が来るようだぞ」

「何の使者が来るんだ?」

「皇帝が代わったので、挨拶がてらに、琉球の様子を調べに来るのだろう。それで、察度(さとぅ)(先代中山王)が昔、使っていた浮島の『天使館』の改築を始めた。二十年も前に、明国から来た使者たちが滞在していた屋敷だ。海船を賜わってからは、明国から使者は来なくなったので、ずっと使っていなかった。かなり、傷みも激しいようだが、それを壊して、新築するには時間が足らないようだ。噂では使者たちは八月頃に来るらしい。総勢、五百人はいるとの事だ」

「五百人? そんなにも大勢で来るのか」

「そいつらが半年近くも滞在する。中山王も機嫌を取るのに大変だろう。久米村(くみむら)のアランポー(亜蘭匏)が大活躍しそうだな」

「この間、ファイチ(懐機)に会ったら、アランポーに対抗できそうな男を見つけたとか言っていたけど、誰だか知っているか」

「多分、ワンマオ(王茂)という男だろう。アランポーに次ぐ実力者らしい。今、中山王の使者として明国に行っている。帰って来て、実際に会ってみない事にはどうにもならんな。それと、まだはっきりと決まってはいないらしいが、来年には『冊封使(さっぷーし)』も来るという」

「何だ、冊封使というのは?」

「明国の皇帝が遣わす使者なんだが、皇帝が王様を任命する儀式をやるらしい。その儀式を受けないと、正式な王様にはなれないそうだ。来年、来るという冊封使は、中山王と山南王(シタルー)の儀式をするために来るようだ。そして、その儀式をやるための会場を『首里天閣(すいてぃんかく)』の跡地に造るらしい」

「儀式をするための会場とはどんな物なんだ?」

「明国の宮殿を模した豪華な建物のようだ。各地の按司たちも呼んで、按司たちの見守る中で儀式をやるというから、かなりの規模のものだろう」

「グスクとは違うのか」

「とりあえずは、その会場を造って、儀式が終わったら、グスクにするつもりなんだろう。その会場造りには、シタルーも加わっているようだ」

「シタルーも、そこで儀式をやるのか」

「多分な。シタルーは明国の宮殿を実際に見ているから、シタルーの助けが必要なんだろう」

「成程」

「浮島の天使館にも、首里(すい)の宮殿にも、配下の者を人足として入れてある」

「ありがとう」

 六月になると、山南王と中山王が合同で送った進貢船が帰って来た。山南王の船は一昨年(おととし)の台風で破損し、修理をしていて、去年の船出には間に合わなかった。そこで、中山王の船に山南王の使者が便乗して行ったのだった。

 進貢船が帰って来ると、島尻大里(しまじりうふざとぅ)から明国の商品を山積みにした荷車が与那原(ゆなばる)に次から次へとやって来て、シンゴとクルシ(黒瀬)が持って来たヤマトゥ(日本)の商品と交換された。与那嶺大親(ゆなんみうふや)から頼まれて、サハチも手の空いている者を連れて与那原に行き、取り引きを手伝っていた。

 そんな頃、糸数では大変な事が起きていた。

 荷車を引いて来る人足から糸数辺りで戦があったらしいと聞いていたが、誰と誰が戦をしているのかわからなかった。糸数按司が玉グスクを攻めるはずはないし、八重瀬按司(えーじあじ)(タブチ)が糸数を攻める事もないだろう。人足たちの勘違いだろうと思っていた。夕方、島添大里グスクから使いが来て、早く戻るようにと言って来た。

 何事だとサハチが戻ると、重臣たちが一の曲輪の屋敷の会所(かいしょ)に集まって待っていた。

「何があったのです?」とサハチはクマヌ(熊野大親)に聞いた。

「糸数グスクが落城した」

「何だって!」

「『上間按司(うぃーまあじ)』という者が攻め落としたらしい」

「上間按司? 聞いた事もないが、何者なんだ?」

「それがわからんのじゃ。わかっているのは今日の昼前、上間按司というのが、二百余りの兵で糸数グスクを攻めて、その日のうちに攻め落としたという事だけじゃ」

「あれだけのグスクが、たった二百の兵で、たったの一日で落ちるものなのか」

「物見を送って調べさせてはいるが、敵の正体も、動きも、まったくわからん。一応は敵の攻撃に備えておいた方がいいじゃろう」

「そうだな。兵を配置に付けてくれ」

 クマヌと苗代大親(なーしるうふや)がうなづいて出て行った。

奥間大親(うくまうふや)は上間按司というのを知らないか」とサハチはヤキチに聞いた。

「亡くなった中山王(察度)が首里天閣(すいてぃんかく)にいた頃、護衛隊の隊長だった男が、中山王が亡くなったあと、首里の南の上間という地にグスクを築いて、上間按司を名乗ったとの噂は聞いておりますが、その男の仕業かどうかはわかりません」

「察度の護衛隊長か‥‥‥今は中山王に仕えているのか」

「多分、そうだとは思いますが」

「中山王が糸数を攻めろと命じたとは思えんが‥‥‥」とサハチは首を傾げた。

 重臣たちは顔を付き合わせていたが、結局、何もわからず、敵が攻めて来る事もなかった。ウニタキなら何かを知っているかもしれないと呼んだが、いつになっても現れなかった。

 次の日、グスクの守りを固めたまま、玉グスク、垣花(かきぬはな)知念(ちにん)、八重瀬、島尻大里に使者を送って、様子を聞いた。誰も詳しい事は知らなかった。中山王がからんでいるのなら、シタルーが知っているかもしれないと思ったが、シタルーは浦添に行っていて留守だったらしい。

 夜になって、ウニタキがやって来た。重臣たちが詰めている会所に呼んで、話を聞いた。

「ようやく、上間按司が何者かわかった」とウニタキは言って、重臣たちの顔を見回した。

「奴は先代の糸数按司の倅だった」

「何じゃと?」とクマヌが驚いた顔をして、ウニタキを見つめた。

 サハチも驚いていた。誰もが、その言葉に驚き、ウニタキの説明を待っていた。

「奴の親父は二十数年前に、亡くなった山南王(汪英紫(おーえーじ))が、この島添大里グスクを奪い取った時に戦死した。跡を継いだ若按司は父親の側室をグスクから追い出した。側室全員を追い出したのかは知らんが、上間按司の母親は追い出されたんだ。上間按司が十二、三歳の頃らしい。上間按司の母親はウミンチュ(漁師)の娘で、グスクを追い出されると実家に帰った。上間按司は十五歳の時に、浮島に出て、荷揚げ人足をやっていた。人足をして何年か経った頃、人足同士の喧嘩があって、それを仲裁している所を察度が見ていたらしい。見込みがあると思われたのだろう。察度に拾われて、察度に仕えるようになった。余程、察度に気に入られたとみえて、察度の末娘を嫁にもらっている。察度が隠居して首里天閣に移ると、そこの護衛隊長に抜擢されて、察度が亡くなるまで仕えていた。察度が亡くなったあと、今の中山王の命令で、上間の地にグスクを築いて、『上間按司』になった。上間グスクから糸数グスクを眺めながら、糸数に戻る機会を窺っていたようだ。弟がいて、十五歳になると糸数城下の大工のもとに修行に出ている。今、糸数では屋敷の改築工事をやっていて、弟が大工としてグスク内で仕事をしていた。家臣の者も人足として潜入させていたらしい。そして、糸数一の猛将と言われている『比嘉(ひじゃ)のウチョー(右京)』が材木を集めるためにヤンバル(琉球北部)に出掛けて行った。今が絶好の機会だと攻めたようだ」

「どうやって、そんな詳しい事までわかったんだ?」とサハチは聞いた。

 いくら、ウニタキでも短時間に他人の過去の事などわかるはずがなかった。

「自分でそう説明したようだ。奴は兄の糸数按司と跡継ぎの若按司を殺したあと、重臣たちを集めて、自分の素性を説明したんだ。何人かの重臣が、奴の事を覚えていたらしい。重臣たちは上間按司を先代の息子と認めて、新しい糸数按司として迎えたようだ」

「グスク内にいた弟と人足に化けた家臣たちに大御門(うふうじょう)(正門)を開けさせて、グスクに攻め込んだのか」とクマヌが聞いた。

「そうです」とウニタキはうなづいた。

「突然、攻めて来ましたからね、大御門を閉めるのが精一杯で、守備兵を集める事もできなかったようです。グスク内には兵よりも作業をしていた大工や人足の方が多いといった状況でした。守備に就いていた兵たちはグスクの外ばかり見ていて、グスク内の事など気に掛けなかった。上間按司の兵が攻めてくると、弟と家臣の者たちは角材を手に持って大御門に近づき、大御門を開けたのです。大御門は櫓門(やぐらもん)だから、御門番(うじょうばん)は皆、櫓の上にいて、下には誰もいなかったらしい。俺の配下の者も人足として入っていたので、奴らが大御門を開けるのをはっきりと見ている。大御門を開けた途端、上間按司の兵たちが突入して来た。兵たちは大工や人足たちには目もくれずに、屋敷内に攻め込んだ。按司が殺されるまで、四半時(しはんとき)(三十分)も掛からなかったようです」

「早い話が、兄弟喧嘩じゃったというわけじゃな」とクマヌが笑った。

「まったく、人騒がせな事じゃ」と与那嶺大親も安心したように笑った。

「中山王とつながりがある奴が糸数按司になると、『東方(あがりかた)』も複雑になって来ましたね」とサハチが言って、重臣たちを見た。

「糸数按司が殺されて、一番困っているのは八重瀬按司じゃろう。仲がよかったようじゃからのう」とクマヌは言った。

 自分の命を狙っていた糸数按司がいなくなったのは、サハチにとって、よかったと言えるが、中山王の息の掛かった者が糸数按司となり、今後、どうなって行くのか一抹の不安を感じていた。

 その後、糸数按司となった上間按司は、東方の按司たちに使者を送って、糸数グスクを攻めた経緯を語り、敵対する意思のない事を示した。サハチはその言葉を信じて、グスクの警固を通常に戻した。

 殺された糸数按司の妻だった玉グスク按司の妹と、若按司の妻だった垣花按司の娘は、幼い子供たちを連れて実家に帰されたようだった。上間按司はなるべく問題を起こさないようにしているようなので、東方の按司たちも安心した。

 何事もなく、月日は流れた。

 七月にヤグルー(平田大親)の妻のウミチルが三女を産み、八月にはマタルーの妻のマカミーが長女を産んだ。

 その頃、明国から永楽帝の使者を乗せた大きな船が二隻、浮島にやって来た。使者は改築した『天使館』に入り、浦添に行って中山王と会い、永楽帝のお礼の言葉を伝えたという。四百人余りの唐人(とーんちゅ)が滞在していて、浮島は大賑わいで大変らしいが、島添大里には何の影響もなかった。

 (うるう)十月には、マチルギが三女を産んだ。最近、生まれるのはなぜか、女の子ばかりだった。

 マチルギが産んだ三女は父方の祖母の名をもらって、『マシュー(真塩)』と名付けた。佐敷ヌルと同じ名前で、「あなたも佐敷ヌルみたいに、いい女になるのよ」とマチルギは嬉しそうに言っていた。

 マシューが生まれた頃、永楽帝の使者を乗せた船は明国に帰って行った。





糸数グスク




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