酔雲庵


酔中花

井野酔雲






第一部 月影







 皆さん、こんにちわ。あたしの名前はラーラ。人間たちは酔中花と呼んでるらしいわ。確かに、あたしはお酒は好きよ。でも、毎日、二日酔いでフラフラしてるわけじゃないのよ。何よ、酔中花って‥‥‥まるで、一升ビンの中で咲いてる花みたいじゃない。まあ、それもいいけどね。

 とにかく、あたしはラーラって名前があるの。覚えといてね。誰がつけてくれたのか、あたし、覚えてないんだけど、物心ついてから、ずっとラーラって呼ばれてるわ。あたしもラーラって名前、気に入ってるの。何となく、可愛いでしょ。あたしにぴったりよ。多分、お父さんとお母さんがつけてくれたんでしょうけど、二人とも、あたし、知らないの。会いたいとは思ってるけど、別にどうでもいいの。だって、あたしの一生って、ほんとに短いんだもの。お父さんやお母さんを捜すより、もっと楽しく生きようと思ってるの。二人にはとても感謝してるわ。きっと、お父さんもお母さんも、あたしの気持ち、わかってくれるわ‥‥‥どうも、湿っぽくなっちゃうな‥‥‥楽しくやりましょう。

 だって、あたしの一生って、たった一日しかないのよ。朝生まれて、夕方には死んじゃうの。ねえ、どう思う? あまりにも短すぎると思わない? あたしだって、もっともっと生きたいわよ。でも、しょうがないしね。その短い時間を精一杯、生きなきゃね。人間なんて、あたしより、もっとずっと短いんでしょ。あたしがほんの瞬きをした位の時間が、人間の一生なんですってね。ほんと、可哀想だわ。そんな短い時間で一体、何をするのかしら。でも、人間にしたら、それが丁度いい時間なのかもね。人間から見たら、あたしなんか何千年も生きてるお婆ちゃんね。でも、勘違いしないでよ。いくら、人間時間で何千年も生きてるからって、あたしはまだ、うんと若いんだから、ほんと、見せてあげたいわ。若くて綺麗なあたしを‥‥‥

 さてと、何か面白い事ないかな‥‥‥





花の精ラーラです。一杯やりましょ




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