時は今
午前中は何とか持ったが、とうとう、昼頃から雨が降り出した。 夢遊とお澪が安土に帰って来たのは、二十九日の昼過ぎだった。 雨の中、二人は船から降り、お澪は鴬燕軒へ向かい、夢遊は我落多屋に帰った。 夢遊が暖簾をくぐると、藤兵衛が帳場から慌てて飛び出して来て、「一体、どうなってるんです?」と聞いて来た。 夢遊は藤兵衛に答えず、帳場を抜けて屋敷の台所へと向かった。おさやから酒を一杯もらうと、それをうまそうに飲み干し、濡れた着物を着替えてから、藤兵衛を二階に誘った。 縁側から天主を睨みながら、「奴は動いたか?」と聞いた。 藤兵衛はうなづいた。 「今朝、 藤兵衛はイライラしていた。 夢遊は藤兵衛を落ち着かせてから、「ようやく、決心を固めた。今晩、あるいは明日の夜、決行されるじゃろう」と答えて、笑った。 「今晩か明日の晩ですって?」 藤兵衛は口をポカンと開け、 「まったく、のんきなもんですな。間に合わなくなっても知りませんよ」 「大丈夫じゃ。備中には知らせた。藤吉郎がうまくやるじゃろう。京都の事は風摩に任せ、皆、備中に送った。わしも備中に行くが、向こうは準備完了じゃ」 「向こうは完了でも、こっちはこれからでしょ」と藤兵衛は夢遊の袖を引っ張った。 夢遊は藤兵衛の手を振り払うと部屋に入った。 「ウォーッ」と叫ぶと大の字になって寝そべり、わざとのんきそうに、「店じまいの方はどうじゃ?」と聞いた。 「もう、ほとんど山に運びましたよ。後は、わしらが逃げるだけです」 藤兵衛は怒ったような顔をして、夢遊の側に座り込んだ。 「おぬしの家族も逃がしたか?」 「ええ。昨日、実家の方に送りました」 「よし。新堂の小太郎はどうしてる?」 「すっかり新婚気取りで、ジュリアとイチャイチャしてますよ」 「ほう。家を借りたのか?」 「ええ。どこかに逃げられたら困りますからね。借りてやりました」 「マリアは山か?」 「ええ」 「マリアとジュリアにも手伝わせてやれ」 「なんですって? まったく、わしは素人衆の指揮を取るんですか?」 「運ぶだけじゃ。孫一の鉄砲隊がついてる」 「いくら、運ぶだけとはいえ、敵が襲撃して来たら、どうなる事やら」藤兵衛はまいったという顔付きで首を振っていた。 夢遊は上体を起こすと、初めて真面目な顔をして藤兵衛を見た。 「とにかく、山にいるマリアと去年の修行者を呼んで待機していてくれ。わしはこれから、小太郎に話して来る。そして、奴をすぐに雑賀に飛ばす。奴の足でも雑賀まで行くとなれば二日は掛かろう。孫一が船を奪って安土に来るのは、早くて来月の四日あたりじゃな」 「それまで、待っていろと?」 「いや。それまでに十兵衛が攻めて来たらまずい。おぬしの判断で、やれると思ったら、天主から長谷川屋敷の下まで運んでおいてくれ。そこまで運べば、後は小太郎と孫一に任せてもかまわん」 「孫一は信じられませんよ」 「孫一が横取りしようとしたら逆らうな。後で取りに行けばいい事じゃ」 藤兵衛はうなづいた。「船で逃げるにしろ、そのまま、雑賀までは帰れんからのう。どこかで荷を下ろさなくてはならん」 「そうじゃ。陸路を襲えばいいんじゃ」 「しかし、奴らには鉄砲がありますよ」 「無理なら奴らの蔵を狙えばいい。天主から盗むよりは楽なはずじゃ。決して、無理はするな」 「分かりました」 夢遊は新堂の小太郎の家に向かった。 こじんまりとした家で、二人はつつましく暮らしていた。 夢遊が顔を出すと、「アラ、おじさん、久し振り。元気だった?」とジュリアがシャモジを手にして、笑顔で迎えた。 相変わらず、丈の短い単衣を着ていたが、派手なリボンの代わりに手拭いを被っていた。 丁度、小太郎は薬売りから帰って来た所で、雨に濡れた着物を着替えていた。夢遊の真似をやめて、地味な支度に戻っていた。 「どこに行っておったんじゃ? 忙しそうじゃのう」と小太郎は懐かしそうに夢遊を迎えた。 「おう、これから忙しくなるわ」 「まあ、上がれ」 夢遊は殺風景な部屋に上がると、「実は、おぬしにも手伝って貰おうと思って来たんじゃが」と奥の部屋に飾ってあるマリア観音の像を眺めた。 「わしはいいわ」と小太郎は首を振った。「もう忍びはやめた。信長の事も、もうどうでもよくなったわ。人並みな生活というのを今、楽しんでおる。ただの薬売りじゃが、それでいいと思ってるんじゃ。わしはのう、キリシタンになろうと思ってるんじゃが、どう思う?」 「そりゃ構わんがのう。最後に、ジュリアのために一仕事やらんか?」 「あたしのため?」とジュリアが台所から聞いた。 「黄金をやるのか?」と小太郎の目付きが変わった。 「ジュリアにも聞いてもらいてえ。こっちに来てくれ」 夢遊は二人を側に寄せると小声で、作戦を話し始めた。 「信長を 「信長が殺された後、天主の黄金をいただく。信長が殺されたとはいえ、留守の者たちは城を守り続けるじゃろう。長谷川屋敷から運び出して船に積み込むつもりじゃが、裏通りとはいえ家臣の屋敷が並んでる。重い黄金を運ぶのは容易じゃねえ。そこで、孫一の力を借りる。奴の鉄砲隊と水軍があれば、簡単に船に積めるじゃろう」 「孫一が動くかのう。奴は黄金を諦め、信長の手下になった」 「信長が死ねば、奴の立場も変わる。今の本願寺は黄金が欲しいんじゃねえのか?」 「確かに、以前のように門徒から銭が集まらなくなっておるからのう。それに、信長が死ねば、反信長派が動き出す。孫一も雑賀から追い出されるかもしれん」 「そうなると益々、黄金は必要じゃ。黄金さえあれば、孫一も然るべき地位が得られるというもんじゃ」 「どうする?」と小太郎はジュリアに聞いた。 「やるべきよ」とジュリアは小太郎の腕をつかんだ。 「黄金があれば孤児院が作れるもの。それにオスピタルも建てられるし、教会だって建てられる。放って置く手はないよ。明智に取られたら、その黄金は戦に使われちゃうのよ。人殺しに使うよりは人助けに使うべきよ」 「よし。おめえがやる気なら、わしもやろう」 「雑賀は遠い。すぐにでも行ってくれんか?」 「うむ‥‥‥ちょっと待て。どうして、おぬしが行かんのじゃ?」 「わしは備中に飛ぶ」 「備中?」 「信長が死んだ後、藤吉郎に天下を取らせにゃならん」 「やはり、おぬしは藤吉郎とつながっておったのか‥‥‥成程のう」 「黄金の事は藤兵衛に任せてある。雑賀から孫一を連れて来たら、藤兵衛と連絡を取ってくれ」 「分かった。ジュリアの事を頼むぞ」 「ああ、マリアも山から下りて来る。一緒に我落多屋に待機させて置く」 小太郎は旅支度をすると、雨の中、雑賀へと向かった。 夢遊はジュリアを連れて我落多屋に帰り、 「新堂の小太郎様は行ったのね?」 夢遊はお澪の姿を眺めながらうなづいた。 お澪は長い髪を後ろで束ね、袴を着け、腰に刀を差し、若侍の格好をして待っていた。 「どう、似合う?」と踊るように一回りして見せた。 「そういう格好もなかなか、いいもんじゃのう。返って、色っぽく見える」 「アラ、そうかしら。もっと早く気づけばよかったのに」 「ナニ、今からでも遅くはねえ」と夢遊はお澪を抱こうとしたが、お澪の腰の刀が邪魔をした。 「そんな暇ないでしょ?」 お澪は夢遊の胸を指先で突いた。 夢遊はニヤけ顔から真顔になるとうなづき、「そなたの仲間は?」と聞いた。 「待ちくたびれて、先に姫路に向かったみたい。向こうの小野屋で待ってるでしょ」 「何人いるんじゃ?」 「そうネ、三十人てとこかな。五十人は集めるつもりだったけど、関東の方も忙しいのよ」 「ナニ、三十人もいれば上等じゃ。わしの配下と合わせれば百人ちょっとになる。百人いれば、毛利への情報を遮断できるじゃろう」 雨の中、南蛮渡来のカパを着た夢遊とお澪は馬を飛ばして京都へと向かった。 この日、信長は 京都見物をしていた徳川家康は、この日、堺に移り、堺奉行の松井 夢遊とお澪が馬を乗り換えながら、休む間もなく飛ばして、ようやく、備中の国に入ったのは六月の二日の昼過ぎだった。 途中、姫路の小野屋に寄って、お澪の配下の忍びを引き連れ、備前と備中の国境にある名越山の山中にて、使い番衆の頭、半兵衛と会った。 「角右衛門、郷右衛門、源右衛門、助右衛門、それに山路と浮舟率いるくノ一も皆、 「よし。手薄の所はねえか?」 「手薄と言えば児島半島じゃな。もし、堺から海路で児島に上陸されたら危険じゃ」 「児島か‥‥‥児島の山伏たちはどっちに付いてるんじゃ?」 「奴らは 「毛利の忍びはどうなんじゃ?」 「当然、動いてはいるが、国境近辺には出没しておらんようじゃ」 「そうか‥‥‥くノ一らは何か調べたか?」 「ダメじゃ。十日やそこらじゃ、分からんわ」 「そうじゃな。今の時点で、信長が殺される事など毛利の忍びも考えめえ‥‥‥それで、藤吉郎の方はどうなんじゃ?」 「高松城下はすっかり水に埋まり、城も一階は水の中じゃ。屋根の上に避難している者も大勢いるが、水が減る事はねえ。毎日毎日、水は増えている。やがて、屋根も埋もれてしまうじゃろう。城の中の者たちには可哀想じゃが見事な眺めじゃ。山の中に突然、大きな湖が出現したんじゃからのう。藤吉郎殿のやる事は気持ちのいいくれえにでっけえわ」 「そうか、後で見に行こう」と夢遊はお澪を見た。 お澪は腕を組み、真剣な顔して、半兵衛の話を聞いていた。 「ところで、信長はどうなったんじゃ? もう、死んだのか?」と半兵衛が聞いて来た。 「分からん。分からんが、予定では死んでるはずじゃ。殺す前に、十兵衛は毛利と連絡を取ったかもしれん。充分に注意してくれ」 お澪の配下に児島半島を固めるように頼むと、夢遊はお澪を連れて、高松城を攻めている藤吉郎の本陣に向かった。以前、竜王山にあった本陣は高松城の東側にある石井山に移動していた。 本陣から、水に埋まった高松城がよく見えた。それは、まさしく驚くべき光景だった。 城下の町は完全に水没し、高松城も本丸と二の丸の一部の建物が顔を出しているだけだった。屋根の上や木の 水をせき止めている堤防は三十町(約三キロ)近くもあり、所々に見張り 水攻めの規模の大きさに、お澪は言葉が出ないほどに驚いていた。 「凄いわネ‥‥‥」としばらくして、やっと、夢遊に言った。 「よくぞ、あれだけの物を築いたわ。藤吉郎のやる事はだんだんとでっかくなって行く」 「これ程の事をやるとは、やっぱり、ただ者じゃないわ、藤吉郎様は。あなたのいう通り、天下を取るべき人なのかもしれない」 「実際にその目で見て、確かめる事じゃな」 本陣内に建てられた豪華な茶室で待っていると、藤吉郎は南蛮風な派手な陣羽織りを着てやって来た。 「我落多屋、よう来たのう」と藤吉郎は夢遊を見て、豪快に笑うと、「アレを見たか?」とお澪の方をチラッと見た。 「ああ、見事な湖じゃな」 「もうすぐ、ケリが付く」 「講和の方は大丈夫なのか?」 「大丈夫じゃ。上様がもうすぐ来る。それまでに和睦をまとめる」 藤吉郎はお澪の方を見ると、「ほう、男装の麗人か。噂の主じゃな?」とニコニコしながら言った。 「まあ、そうじゃ。小野屋の若女将じゃ。今回の仕事を手伝ってもらっておる」 お澪は頭を下げて、自己紹介をした。 「おう、そういえば、小野屋というのは聞いておるぞ。姫路に店を出したじゃろう。そうか、小野屋の若女将か‥‥‥ここももうすぐ、わしのものとなろう。ここにも店を出すがいい。もっとも、水が引くまで待ってもらわんとならんがのう」 「あの、羽柴様、あの堤防はどうやって築いたのでございますか?」お澪が興味深そうに聞いた。 「わしもそれが聞きたかったんじゃ」と夢遊も言った。 「ナニ、銭の力よ」と藤吉郎は簡単に答えた。「 「土嚢はいくつ使ったんじゃ?」 「詳しくは知らんがの、六百五十万程使ったらしいの」 「六百五十万か‥‥‥想像もできん数じゃ」 「六十五万貫ものお足(銭)を使ったんですネ?」 「らしいのう」 「気前がいいんですネ」 「ナニ、毛利の領地を貰えば元は取れる。それに、銭を蔵の中にしまっておいてもしょうがない。使うべき時に使わん事にはの。住民たちも喜んで働いてくれたわ」 「そりゃそうじゃろう。土嚢一俵で百文もくれれば、誰でも喜んで働くわ。しかし、それだけの銭を使ったら、負けるわけにはいかんのう」 「当然じゃ。これでも命懸けなんじゃよ」 藤吉郎は世間話をして笑っているだけで、本題には一切、触れなかった。陣中に敵の 本陣を去りながら、夢遊はお澪に、「藤吉郎をどう見る?」と聞いた。 「驚いたわ。今までの武将とは明らかに違うわネ。お足の使い方をよく知ってるわ。きっと、お足を出したのは堺の商人たちでしょ。商人たちに信用されてるっていうのは、これからは一番の強みよ。それに、民衆の心を捕らえるのもうまいし、信長様以上の人物かもしれないわ。北条家としても、敵に回さない方がよさそうネ」 「さすが、人を見る目があるのう。そなたもただ者ではないわ」 「いいえ。あたしは、あなたの人を見る目に驚いてたの。初めて会った時、藤吉郎様は針売りをしながら仕官口を捜してたんでしょ。そんな藤吉郎様を見て、どこかが違うって感じるなんて凄いわ」 「ナニ、わしだって、奴がここまで来るとは思ってもいなかったわ。小さな城の主くらいにはなれると思っただけじゃ。奴がここまでになったのは、奴の努力じゃよ」 「でしょうネ。信長様と気が合ったのね、きっと」 「じゃろうな。猿、猿と呼びながら、信長は藤吉郎の才能をどんどん引き出して行ったのかもしれんのう」 「藤吉郎様にとって信長様は恩人以上の存在なのネ」 「多分な‥‥‥」 夢遊はお澪を連れて、国境を見て回った。
その頃、安土の城下は大騒ぎだった。 信長を殺した明智の大軍がまもなく、安土に攻めて来るとの噂が流れ、城下に住む者たちは家財道具も捨て、妻子だけを連れて、本国の美濃や尾張を目指す者が続出した。中には、自分の屋敷に火を放って逃げる者までもいた。 城の留守を守っている者たちは、突然の異変に驚き、騒ぐ女たちを静めるのに 城下の混乱をいい事に、どこから湧き出て来たのか、ならず者たちが武器を手にして暴れ回っていた。近在の百姓たちも紛れ込み、逃げ去って行った家に忍び込んでは家財道具を盗んでいた。 小野屋は信長の死の知らせが来ると、すぐに店を閉じて、皆、どこかに消えて行った。 我落多屋も店を閉じたが、皆、武装して待機していた。その中に、マリアとジュリアもいた。二人は腰に刀を差して、二階から 「パードレ様は大丈夫かしら?」とマリアが言った。 「助けなくっちゃ」 二人は顔を見合わせ、うなづくと我落多屋を飛び出した。 「どこ行くのよ」と鉄砲をかついだ、おさやが後を追って来た。 おさやが止めるのも聞かず、二人はセミナリオに走って行った。おさやも放ってはおけず、仕方なく一緒に行ったが、すでに、セミナリオには誰もいなかった。どこに行ったのか分からないが、皆、無事に逃げたようだった。五、六人の男たちがセミナリオの窓を壊して、盗みに入ろうとしていたので、鉄砲で脅して追い払った。 ドミニカがやっている孤児院の子供たちも無事に逃げた事を確かめると三人は我落多屋に戻った。 日が暮れると騒ぎも治まり、城下は静けさを取り戻した。 城下に残っている者たちは一安心したが、それもつかの間、琵琶湖上を見慣れぬ船が次々にやって来て、城下を囲むように停泊していった。武装した男たちを乗せた船は、『南無阿弥陀仏』と書かれた旗を掲げ、不気味に静まり、城下の様子を窺っていた。 誰の目にも 信長の重臣たちの誰かが、きっと助けに来てくれるだろうと甘い希望を抱き、城下に残っていた者たちも船影が増えるにつれて、諦めて夜逃げして行った。 噂通り、明智十兵衛は安土に向かっていた。 六月一日の 明智軍の襲撃と共に、風摩小太郎率いる忍びが本能寺に潜入し、信長の命を奪っていた。 本能寺が焼け落ちると、十兵衛は妙覚寺にいる信長の長男、信忠を攻めた。 信忠は本能寺に救援に向かおうとしたが、すでに遅いと諦め、隣にある二条御所に移った。十兵衛は妙覚寺を焼き討ちにし、 信長の残党狩りをし、京都を占領下に置くと、昼過ぎに十兵衛は安土へと向かった。 申の刻頃、大津まで来て、勢多城主の山岡 十兵衛は橋の修復を命じ、仕方なく坂本城に入り、味方を募るため、各地に誘いの手紙を送った。
雑賀に向かった新堂の小太郎は二日の夜になって、ようやく雑賀に着き、孫一と会っていた。この時点で小太郎も孫一も信長の死を知らなかった。 孫一は信長襲撃の計画があると知って、顔色を変えて驚き、一大事じゃと吠え立てた。 「クソッ! 何という事じゃ。それが本当なら、のんびりしておれんぞ。上様の死が雑賀に伝われば、わしはここを追い出されるわ。とにかく、真相を確かめなくてはならん。明日、一番で出掛けるぞ」 孫一はイライラしながら部屋の中を歩き回った。 「安土の黄金は一万枚じゃな?」と孫一は小太郎に確認した。 「そう聞いてるが」 「どう分けるんじゃ?」 「四等分じゃ」 「四等分? なぜ、四等分なんじゃ?」 「おぬしとわしと五右衛門とジュリア姉妹じゃ」 「ジュリアにも分け前をやるのか?」 「鍵を持っていたのはあの姉妹じゃ」 「五右衛門は何をする?」 「天主から黄金を長谷川屋敷の下まで運ぶ」 「それをわしらが船に積むのか? 一番、危ねえ仕事をして、たったの二千五百枚か。割に合わんのう」 「ナニ、奴らを船に乗せなけりゃいいのさ」と小太郎は当然の事のように言った。 「うむ、それじゃな」と孫一はニヤッと笑い、「おぬしも悪い奴じゃのう」と口ひげを撫でた。 「五右衛門には何の借りもねえからな。ただし、わしは裏切るなよ」 小太郎は孫一を見ながら、刀の 「わしらは兄弟じゃねえか、心配するな。黄金は山分けじゃ」 孫一は家来たちに、出陣の支度をして明日の早朝に集まるように命令を下した。
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